深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Ill Wind / Radiohead - 愚かさが招いた不吉な風

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『A Moon Shaped Pool』の特別版にのみ収録されたボーナストラック。
2019年1月にストリーミング配信が解禁された。
歌詞は止められない出来事を憂う内容となっている。

【歌詞】

Keep your distance
Then no harm will come

No ill wind
Will blow
Will blow

Sudden... words
Must never be spoken

An ill wind
Will blow
Will blow

Keep your cool
Do not give into emotion

An ill wind
Will blow
Will blow

 

【日本語訳】 

距離を保つんだ
そうしたら もう悪いものは来ない
不吉な風も 吹くことはない
吹くことはない

突然投げかけられた言葉
それは決して口にしてはいけない言葉

ああ 不吉な風が
吹いてくる
吹いてくる

冷静になるんだ
感情に流されるんじゃない

ああ 不吉な風が
吹いてくる
吹いてくる

 

【解説】 

"ill wind"(イル・ウィンド)はイギリス英語の口語で使われるもので「悪影響を与えるもの」という意味だそうです。日本語でも「風向きが悪くなってきた」みたいに風を比喩として使いますよね、そんな感覚に近いものだと思われます。

(訳では「不吉をもたらす風」というニュアンスで捉えました)

 

過去に作られた未来の暗示

音作りはギター&ストリングスサウンドに、『In Rainbows』時代の音源をごちゃまぜにしたような構成になっています。エレクトリックピアノアルペジオは最初期の『Arpeggi』を彷彿とさせますし、シンセサイザーのリズムは『Supercollider』のバックトラックをそのまま持ってきたかのようです。

 

 

 

『A Moon Shaped Pool』に収録されてはいるものの、この時期に作られた楽曲たちとは明らかに異なる音作りがなされています。おそらく曲自体は相当前に出来上がっていたのでしょう。

では彼らは『The King of Limbs』にも収録しなかった楽曲を、なぜ2016年になってあえてリリースしたのでしょうか?

 

不吉な風がすぐそこまで来ていた

2016年のイギリスにおける大きな出来事といえば1つしかありません。イギリスのEU離脱決定です。EU全体が難民受け入れで大混乱に陥っていた頃、唯一の島国である大国イギリスは対岸の火事から目を背ける決断をしてしまいました。
(2016年2月20日国民投票の実施を宣言)

参考:イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票 - Wikipedia

 

そして来たる2016年6月23日に国民投票が行われ、過半数の国民の賛成によりEU離脱が決定づけられました。『A Moon Shaped Pool』がリリースされたのが2016年5月8日。英国を二分する議論がなされていた、まさにそのときだったのです。

 

時代を超えた奇妙な符合

ただ前述の通り、この曲はもっと以前に作られていたはずです。私が思うに、作られた当時は歌詞も全く違う意味を帯びていたのだと思われます。(それはきっと「内なる悪から逃れたくても逃れられない。心の中に"ill wind"が吹いてくる」といったニュアンスだったのでしょう)

 

でも2016年の状況下において、この歌は奇しくも皮肉めいた意味を帯びることになりました。

 

距離を保つんだ
そうしたら もう悪いものは来ない
不吉な風も 吹くことはない

 

おそらくレディオヘッドはここに奇妙な符合を感じ取り、いまがこの曲が世に出るべき時期なのだと考えたのでしょう。(ただしアルバム自体に入れるとせっかくの世界観が崩れてしまうため、2曲しか入っていない全く別のCDとして世に出したのだと思われます)

 

イギリス国民が主権という名の「愚かさ」を振りかざして得た宝箱は、混沌を招き入れてしまうパンドラの箱でもあるのです。EU離脱により、イギリスが、欧州が、そして人類全体が不吉なものに飲み込まれつつある情景が浮かんできます。

 

冷静になるんだ
感情に流されるんじゃない

ああ 不吉な風が
吹いてくる
吹いてくる 

 

発足から25年、このまま本当にイギリスが離脱してしまえば、他の国もそれに続くでしょう。平和と調和の象徴であったはずのEUが崩壊することは、人類の敗北すら意味する未曾有の出来事になります。

 

 

正直、いまの世界情勢は何本かネジが外れたみたいです。

私たちは一体どこに向かっているのでしょうか。

 

 

ああ 不吉な風が 吹いてくる

 

 

 

 

<あわせて読むともっと深読み>

同時期のEU(世界)を象徴したような鮮烈な歌詞

 

【動画紹介】Paranoid Android / Josh Cohen - 完璧なピアノカバー

オーストラリアで活動するJosh Cohen(ジョシュ・コーエン)のピアノカバー。
低評価257に対して、高評価1.4万というとんでもない数値を叩き出している(2018年12月6日現在)

 

「今まで聴いたパラノイド・アンドロイドの中で最高のバージョン」

今日は歌詞解説はお休みして、Rediohead動画の紹介です。

とんでもなく美しいピアノカバーを見つけたのでみなさんにもぜひ聴いていただければと。

まずはジブリ映画を思わせる優雅なフレーズ。幻想的な音色に聴き惚れてしまいますが、だんだんと「これ本当にParanoid Androidなの?」と疑い始める私。そんな心を見透かしたかのように、ゆっくりと複雑な音の歯車たちが首をもたげ始めます。それらのひとつひとつが自分の居場所を探してさまよい始め、そして02:50をすぎたあたりであるべき場所を見つけたかのように『おなじみのフレーズ』が......ここから先はぜひあなたの耳でお確かめください。

 

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海外の反応

3:00ころのワイ「は?こんなのパラノイドアンドロイドじゃねえし!」
8:00ころのワイ「なんてこった!今まで聴いたパラノイド・アンドロイドの中で最高のバージョンじゃねえか!」 

 

もう私には何も言うことはない。この贈り物に感謝しかない

 

”Rain down”のパートがただただ美しい

 

低評価つけているやついるね。きっと"that kicking, squealing Gucci little piggy(感情むき出しのグッチを身につけた子豚みたい)"なやつに違いないよ

 

神...何このイントロ

 

レディオヘッドはこの動画を見るべき

 

Paranoid Androidのピアノカバーといえば、ブラッド・メルドーのプレイも有名ですが、私は完璧にこちらの方が好きになりました。この夜長の季節、ずっと聴いていたい作品です。

  

 

<あわせて読むともっと深読み>

 ちなみに歌詞解説はこちら。

 

 

【歌詞解説】Idioteque / Radiohead - 子供が先だ、子供が先、子供が

印象的なシンセサイザーのリフは、メインギターのジョニー・グリーンウッドがポール・ランスキーの『Mild und Leise』(1976年発表)の一節をサンプリングしたもの。

【歌詞】

Who's in a bunker, who's in a bunker?
Women and children first, and the children first, and the children
I laugh until my head comes off,
I swallow 'til I burst, until I burst, until I...
Who's in a bunker, who's in a bunker?
I have seen too much,
I haven't seen enough, you haven't seen it
I laugh until my head comes off,
Women and children first, and children first, and children...

Here I'm allowed everything all of the time
Here I'm allowed everything all of the time

Ice age coming, ice age coming,
Let me hear both sides, let me hear both sides, let me hear both...
Ice age coming, ice age coming,
Throw it in the fire, throw it in the fire, throw it on the...
We're not scaremongering, this is really happening, happening,
We're not scaremongering, this is really happening, happening,
Mobile's working, mobile's chirping
Take the money and run, take the money and run, take the money...

Here I'm allowed everything all of the time
Here I'm allowed everything all of the time
Here I'm allowed everything all of the time
Here I'm allowed everything all of the time

And first, and the children, and first, and the children
And first, and the children, and first, and the children
And first, and first, and the children
And first, and the children
And first, and the children, and first, and the children
And first, and first, and the children
And first, and the children, and first, and the children
And first, and the children, and first, and the children

 

※ bunker … 核実験の観測施設(強者のための避難所)

※ scaremonger ... 戦争や天災などのデマを流して世間を騒がせる人

【日本語訳】

シェルターにいるのは誰だ 
シェルターにいるのは誰だ
女子供が先だ 女子供が先 女子供が先
俺は頭がもげるまで笑う
俺は破裂するまで飲み込む 破裂するまで 破裂するまで
シェルターにいるのは誰だ
シェルターにいるのは誰だ
もう俺は十分見てきた 
いやまだ俺には何も見えちゃいない お前は見ちゃいない
俺は頭がもげるまで笑う
女子供が先だ 女子供が先 女子供が先…

ここで俺は生かされてる
すべてのもの すべての時間
ここで俺は生かされてる
すべてのもの すべての時間

氷河期がくる 氷河期がくる
双方の意見を聞かせろ
双方の意見を聞かせろ 双方の意見を…
氷河期がくる 氷河期がくる
それを火にくべろ
それを火にくべろ それを火に…
俺は陰謀論者じゃない
これは本当に起きていることだ
俺は陰謀論者じゃない
これは本当に起きていることだ
携帯電話がリリリ 携帯電話がチチチ
金を持って逃げろ
金を持って逃げろ 金を持って…

ここで俺は生かされてる
すべてのもの すべての時間
ここで俺は生かされてる
すべてのもの すべての時間

子供が先だ 子供が 子供が先…
子供が先だ 子供が 子供が先…
子供が先だ 子供が 子供が先…
子供が先だ 子供が 子供が先…

 

【解説】

レディオヘッドがテクノロックへ踏み出す大きな契機となった1曲。

印象的な4音のシンセサイザーのリフは、ジョニー・グリーンウッドがポール・ランスキーの『Mild und Leise』(1976年発表)の一節をサンプリングしたもの。(ジョニーが作成した50分にも及ぶ音響デモの中から、トム・ヨークがこの部分をとても気に入り曲に採用したそう)

 

 (↑該当箇所の43秒から再生します)

  

いまここで起きている恐怖

この曲は自分たちを決定的に損なう何かに対する恐怖を描いています。

シェルター(bunker)にいるのは誰だ 
女子供が先だ 女子供が先 女子供が先

bunkerは核実験の観測施設です。

é¢é£ç»å

防空壕」だと被害者のニュアンスが出てしまうので、上記ではあえて「シェルター」と訳しています。冒頭の一節は、逃げ惑う人たちを揶揄したものではなく、最悪の兵器で世の中を混沌へと突き落としておきながら、それを安全なところで見ている人間たちへの怒りなのです。

続く歌詞も、彼らの違う側面への皮肉です。

俺は頭がもげるまで笑ってるだろう
俺はきっと破裂するまで飲み込むんだ 破裂するまで 破裂する

(中略)

金を持って逃げろ
金を持って逃げろ 金を持って

彼らが何を「飲み込む」のかというと、それはきっと金です。軍事力と経済力は同義です。世の中を牛耳る人間たちは兵器をちらつかせ、世界中のお金を手中に収めます。彼らは全てを飲み込むまで満足しないようです。それこそ人類が破滅するまで。

もう俺は十分見てきた 
いやまだ俺には何も見えちゃいない お前にも

トムはこんな世界の負の面を前に「もう十分だ」と考えます。でもすぐさま「まだ何も見えちゃいない」と自己否定します。彼は「いまの世界は間違っているが、正しい世界も必ずあるはずだ」と信じているのです。ジョン・レノンが『Imagine』で示したテーマをたった一文で表現するあたり、トムの文才には本当に驚かされます...。

 

氷河期=冷戦の時代?それとも?

サビでトムとエドがファルセットを奏でた後、すぐに2番が始まります。曲の後半ではより具体的な言及を始めます。

氷河期がくる 氷河期がくる
双方の意見を聞かせろ

(中略)

俺は陰謀論者じゃない!
これは本当に起きていることだ! 

冒頭の「bunker」という言葉選びから、この一節は私たちに核戦争を想起させます。まずは「氷河期」を「冷戦」として捉えてみましょう。「双方」というのは言うまでもなくアメリカとソ連、資本主義対共産主義の対比です。お互いがお互いの主張を繰り返し、決して歩み寄ることがない世界。スイッチ一つで人類は滅亡するという圧倒的恐怖。にも関わらずどちらかの陣営(国)にいる限り、プロパガンダに支配され、何が真実なのかなんてわからない。そんな時代です。

これも一つの解釈ではありますが、トムはここに一つのレトリックを組み込んでいるように思われます。それはこの冷戦の構図を土台とした、地球温暖化への言及です。

レディオヘッドは『Kid A』というアルバム以降、政治や経済の愚かさに言及するようになりました。その矛先は戦争であったり経済搾取であったり、環境破壊であったりします。これら全てに共通するのは、この世界に人間が住めなくなるという圧倒的不可逆的な愚行ということであり、トムはその後発表する多くの楽曲を通して「いまならまだ間に合う」と警鐘を鳴らし続けているのです。

 

子供が先だ、子供が先、子供が...

『Idioteque』の本質的なテーマはここにあります。

映画『デイ・アフター・トゥモロー』でも描かれているように、地球温暖化の後には氷河期が来ます。科学者たちが人間の活動が温暖化を招いていると明確に提唱しているにも関わらず、多くの資本家たちは聞く耳を持ちません。現代社会は炭素の排出を土台にして作られているからです。(どこかの大統領は石油メジャーからの多額の献金を受け、地球温暖化なんてないと言い張っています)

相手の意見を聞かず、お互いが牽制しあっている現状。これはまるで形を変えた冷戦です。我々全員が生きるか死ぬかの瀬戸際にいるにもかかわらず、どちらもが次の一歩を踏み出せずにいます。このブラックコメディみたいな状況を、冷戦という人類史上最大の論争に重ね合わせることでトムは「いままさに起きていることなんだ」と表現しているのです。

 

人間同士の争いなんてしている暇はない。みんなが手を取り合わなければ・・・子供たちはみんな死ななければならなくなる。

子供が先だ 子供が 子供が先

二人の子を持つトムにとって、この叫びは心からの願いなのでしょう。

 

 

<あわせて読むとさらに深読み>

行き過ぎた経済活動が途上国を締め付ける姿を描いています

 

温暖化によって全てが流されてしまった世界を描いています

【歌詞解説】Suspirium / Thom Yorke - トム初の映画サウンド・トラック

トム・ヨークが映画『Suspiria』のために書き下ろした作品。
彼が映画のサウンドトラックを担当するのは初めて。(楽曲提供を除く)
日本公開は2019年1月予定。

【歌詞】

This is a waltz thinking about our bodies
What they mean for our salvation
With only the clothes that we stand up in
Just the ground on which we stand

Is the darkness ours to take?
Bathed in lightness, bathed in heat

All is well, as long as we keep spinning
Here and now, dance behind a wall

Only the old songs and laughter we do
All forgiven always and never been true

When I arrive here, will you come and find me?
Or in a crowd, be one of them?
Wore the wrong sign back beside her
Know tomorrow's at peace

 

【日本語訳】

これはワルツ 私たちが
身体について考え 救済を受けるための
衣服だけを身に付け踊る
ここには我々の立つ地が広がるだけ

この暗闇が私たちの得るものなの?
光を浴びて…熱をくぐり抜けて…

すべてがうまくいく
私たちが回り続けている限りは
いまここで 壁に隠れて踊りなさい

そこには古い歌と笑い声
全ての赦しは 真実だが真実ではない

私が到着したら 迎えに来てくれるの?
それとも群衆に紛れて 隠れてしまうの?
おかしなサインが彼女を包み込む
まるで明日の死を暗示するように

 

【概要】

『Suspirium』は、トム・ヨークがホラー映画『Suspiria』(2019年1月公開/邦題:サスペリア)のために書き下ろした作品。本映画は1977年制作のイタリアの傑作ホラー映画のリメイク作品となっており、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノが監督を務めることで話題になっています。

 

私はまだ原作・本作ともに観ていないので、何やら暗示的な歌詞だなあという薄っぺらい認識しか持ててないのですが、映画のストーリーを象徴していそうな言葉選びになっていますよね。

あと何気に、トムが映画のサウンド・ドラックを手掛けるのは初なんですよね。Radioheadとして楽曲を提供していたり、ジョニーがポール・トーマス・アンダーソンと名作をいくつも生み出しているので見落としがちでした。それにしても初作品がホラー映画というところもトムらしいというか、なんというか。

 

ただホラー映画苦手なんですよね。心が映画のワンシーンに囚われてしまう気がして...。でも頑張って観ようと思います...ので、歌詞の意味がわかったら解釈を追記します。

(原作知ってるよとか、いち早く観たよという方がいたらぜひ解釈をコメントいただけると嬉しいです)

 

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【歌詞解説】Just / Radiohead - やったのはお前だよ!意味深なPV

トムとジョニーがどれだけコードを組み込めるかを競い合った『The Bends』のシングル曲。
意味深なPVが当時話題となった。(記事内にPVの和訳あり)

 

【歌詞】

Can't get the stink off
He's been hanging 'round for days
Comes like a comet
Suckered you but not your friends

One day he'll get to you
And teach you how to be a holy cow

You do it to yourself, you do
And that's what really hurts
Is that you do it to yourself, just you
You and no one else
You do it to yourself
You do it to yourself

Don't get my sympathy
Hanging out the 15th floor
You've changed the locks three times
He still comes reeling through the door

One day I'll get to you
And teach you how to get to purest hell

You do it to yourself, you do
And that's what really hurts
Is that you do it to yourself, just you
You and no one else
You do it to yourself
You do it to yourself

You do it to yourself, you do
And that's what really hurts
Is that you do it to yourself, just you
You and no one else
You do it to yourself
You do it to yourself

You do it to yourself
You do it to yourself
You do it to yourself
You do it to yourself

 

【日本語訳】

きみはこの悪臭から逃れられない
あいつはこのところずっと あたりをうろついてる
あいつは彗星のようにやってきて
きみを食い物にした(ほかの誰かではなくてさ)

いつかそいつはお前(※1)のところにも来るよ
そしてお前がどれだけクソだったかを告げるんだ(※2)

お前は自分に向かってやったんだ、お前がさ
自身を傷めつけることを
そんなことをお前は自分に向かってやったんだ、お前がだよ
他の誰でもないお前がさ
お前は自分に向かってやったんだ
お前は自分に向かってやったんだ

同情なんて得られないさ
15階から身を乗り出してもさ
お前が部屋の鍵を3度も取り替えたって
あいつはドアをふらっと通り抜けて入ってくる

いつか俺はお前を捕まえる
そしてお前に教えてやる
まじりっけなしの地獄ってやつをさ

お前は自分に向かってやったんだ
お前自身を傷めつけることを
そんなことをお前は自分に向かってやったんだ、お前がだよ
他の誰でもないお前がさ
お前は自分に向かってやったんだ
お前は自分に向かってやったんだ
(※繰り返し)

お前は自分に向かってやったんだ
お前は自分に向かってやったんだ
(※繰り返し)

 

※1 前段落と同じ"You"ですが ここで主語が変わっています

※2 "holy cow"は、驚きや恐怖・不快感を表すスラング。日本語にしにくいのでこのように訳しました

 

【解説】

印象的なコード進行がイントロを飾る「The Bends」のシングル曲。トムとジョニーが、どれだけたくさんのコードを一曲に盛り込めるかを競って作られたと言われています。

 

お前は自分に向かってやったんだ!

この曲も因果応報をテーマにしています。

冒頭はとある人物(女性?)がある男性につけ狙われているシーンから始まります。

きみはこの悪臭から逃れられない
あいつはこのところずっと あたりをうろついてる

その男性はストーカーでしょうか。はたまた財産を狙っている強盗でしょうか。
いずれにせよ、その善良な市民はその男にいたぶられてしまうのです。

あいつは彗星のようにやってきて
きみを食い物にした(ほかの誰かではなくてさ)

ここまでが前談。
悲しいお話から一転、トムたちは徹底的にその悪意に対して糾弾を始めます。

いつかそいつはお前のところにも来るよ
そしてお前がどれだけクソだったかを告げるんだ

お前は自分に向かってやったんだ、お前がさ
自身を傷めつけることを
そんなことをお前は自分に向かってやったんだ、お前がだよ
他の誰でもないお前がさ

ここでもRadioheadお家芸である「追いかける側の者が、実は追われる者であった」というプロットが用いられます。「お前が誰かを破滅に追いやったのなら、誰かがお前を破滅させるのも当然だろう」という因果応報論ですね。

この表現は3rd Album「OK Compuer」の「Karma Police」や、9th Album「A Moon Shaped Pool」の「Burn the Witch」でも見られます。おそらく全アルバムを通してこの「Just」が初なのではないでしょうか。

(こうしてみるとすべてシングルカットされていますね)

 

Radiohead史上、初めてストーリー性を帯びたPV

このPVも意味深げで良いですよね。

男性が普段と変わりなく歩いていたかと思えば、突然道路に寝そべり始めます。街行く人がその理由を聞いてもなかなか答えず・・最後にみんな横になってしまいます。

その理由は明かされませんが、みなさんはどう考えましたか?

 

冒頭に、男性がバスタブに向かい合うシーンをわざわざ入れているので、ここがヒントになる気がしてますが・・どうなんでしょう。(歌詞からは罪の意識的なものだとは思うのですが・・あまりレディオヘッドはキリスト的宗教観を入れないんですよね。)

 

PV内の会話も和訳してみました。参考にどうぞ!

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A「ああなんてことを...ごめんなさい、見えなかったもので...大丈夫ですか?」

男「ああ」

A「どうしたんです、倒れたんですか?」

男「いいや、俺は元気だ。ほっといてくれないか」

A「ああ...酔っ払っているのか」

男「酔っ払ってなんていない」

A「じゃあなんでこんな道の真ん中で寝転がってるんだ?なあ、俺なんかしようか?」

A「おい... なんなんだよ。さあ、起こしてやるから」

男「触るな!」

B「なんだ、どうした?倒れてるのか?」

A「いや...そういうわけじゃないんだが...」

C「怪我してるのかい?」

男「いいや、すまないが諸君、ほっといてくれないか」

D「ちょっとおかしい人なんだよ、きっと」

男「俺は狂ってなんてない。ほっといてくれ」

A「じゃあなんで寝転がってるんだよ。なあ、どうしたのかわけを教えてくれないか?」

男「ああ...それをいうことはできない...それは正しくないことだ」

D「やっぱ狂ってやがる」

C「見て!おまわりさんよ!」

一同「おまわりさん!」

O「大丈夫かい?」

男「大丈夫だ。頼むからここで横にならせておいてくれないか」

O「そういうわけにはいかないよ、お父さん...」

男「触るんじゃない!」

A「なあ...ただわけを話してくれればいいんだ、教えてくれよ!」

男「諸君は知りたいとは思ってない。信じてくれ」

A「あんたは教える意味がないって思ってる、そうだな?...例えば、俺たちがみんな死んでしまうとか、そういうことか?それがあんたが横になってる理由なのか?」

男「違う」

A「教えてくれ!教えてくれよ、一生のお願いだから!」

男「諸君は私が横になっている理由を知りたいのだね」

A「ああ!」

男「それを望んでいるのだね?」

男「わかった、話そう。なぜ私が横になっているかを...きっと神もお赦しくださる...神は我々をお救いになるだろう...諸君には諸君が私に何を問うたのかわかっていないのだから...」

A「いいから教えろ!」

男「***********」

 

<seriph>

- Jesus, I'm sorry. I didn't see you there. Are you okay?

Yes.

- What happened, did you fall?

No I'm fine. Please leave me alone.

- You've been drinking.

I haven't been drinking.

- Why are you lying in the middle of the pavement?

- You could have broken my neck!

- Look... what's wrong? Here let me help you up.

No! Don't touch me!

-- What's the matter with him? Has he fallen?

- No... he hasn't fallen.

-- Is he hurt?

No, please, all of you, leave me alone.

-- He must be mad.

I'm not mad. Just leave me alone.

- Why are you lying down? Why won't you tell me what's wrong?

Look I can't tell you.. ...it wouldn't be right.

-- He must be mad.

-- Oh look Officer!

-- Officer!

- Are you alright?

I'm fine. Please, will you just let me lie here.

- I'm afraid I can't let you do that sir.

Don't touch me!

- Just tell me why you're lying here. Tell me!

You don't want to know, please believe me.

- You don't think there's any point right?

- What, that we're all going to die? Is that it? Is that why you're lying here?

No.

- Tell us! Tell us for Christ's sake!

You want to know why I'm lying here?

- Yes!

You really want to know?

Yes I'll tell you. I'll tell why I'm lying here... ...but God forgive me... ... and God help us all... ...because you don't know what you ask of me.

- Tell us!

 

ぜひ、あなたのアイデアもコメントに書き込んでくださいね。

応援のコメントや「いいね!」もいただけると、とても嬉しいです。

ブログを続けるはげみになるので、よろしくお願いします! 

 

 

<あわせて読むともっと深読み>

 

【歌詞解説】The Bends / Radiohead - トムの心からの"Help!"

デビュー2作目のアルバム『The Bends』のタイトル曲。
疎外感が全面に押し出された歌詞は、
The Beatlesの『Help!』を彷彿とさせる内容となっている。

【歌詞】

Where do we go from here?
The words are coming out all weird
Where are you now
When I need you?
Alone on an airplane
Falling asleep against the window pane
My blood will thicken

I need to wash myself again
To hide all the dirt and pain
Cause I'd be scared that there's nothing underneath
But who are my real friends?
Have they all got the bends?
Am I really sinking this low?

My baby's got the bends
Oh no
We don't have any real friends
No, no, no

Just lying in the bar with my drip feed on
Talking to my girlfriend, waiting for something to happen
I wish it was the '60s, I wish I could be happy
I wish, I wish
I wish that something would happen

Where do we go from here?
The planet is a gunboat in a sea of fear
And where are you?
They brought in the CIA
The tanks and the whole marines
To blow me away
To blow me sky high

My baby's got the bends
We don't have any real friends

Just lying in the bar with my drip feed on
Talking to my girlfriend, waiting for something to happen
I wish it was the '60s, I wish I could be happy
I wish, I wish
I wish that something would happen

I wanna live, breathe
I wanna be a part of the human race
I wanna live, breathe
I wanna be a part of the human race
Race, race, race

Where do we go from here?
The words are coming out all weird
Where are you now
When I need you?

 

【日本語訳】

ぼくらはここからどこに向かうんだ?
そんな言葉がふいについて出てくる
きみはいまどこにいるんだ?
ぼくが必要としているのに
ぼくは飛行機にひとりぼっち
窓ガラスによりかかって眠りに落ちながら
ぼくの血は濁っていく

ぼくはもう一度ぼくを洗い流さなきゃ
よごれと痛みを隠すために
だって足元になにもないのが怖いんだ
でも本当の友人って誰なんだ?
みんな”bends”(※1)になってしまったのか?
ぼくはちゃんと降りていってるのか?

ああ 彼女も”bends”になってしまった
なんてこった
やっぱり本当の友人なんていないんだ
いやだ、いやだ!

ぼくはバーで点滴(※2)を入れながら
ガールフレンドと話している
そして何かが起きるのを待ってる
ああ いまが60年代だったらなあ
きっと幸せになれただろうに
ああ...ああ...
ぼくは何かが起こるのを待ってる

ぼくらはここからどこに行く?
この星は恐怖の海を漂うガンボード(※3)
なあ、きみはどこにいるんだ?
やつらはCIAに運び入れた
戦車一式と全海軍を
ぼくを吹き飛ばすために
空の彼方へ吹き飛ばすために

ああ 彼女も”bends”になってしまった
もう友人はいなくなってしまった!

ぼくはバーで点滴を入れながら
ガールフレンドと話している
そして何かが起きるのを待ってる
ああ、いまが60年代だったらなあ
きっと幸せになれただろうに
ああ、ああ
ぼくは何かが起こるのを待ってる

ぼくは生きたい、呼吸をしたい
ぼくは人類の一部になりたい
ぼくは生きたい、呼吸をしたい
ぼくは人類の一部になりたい
人類の…人類の…

ぼくらはここからどこに向かうんだ?
そんな言葉がふいについて出てくる
きみはいまどこにいるんだ?
ぼくが必要としているのに…

 

※1 “bends”:減圧症

※2 in the bar with my drip feed on:"drip feed"は点滴の意味。とあるバーに点滴をモチーフとしたカクテルがあったらしい。自身を病気と揶揄した言葉遊びだろう
※3 ガンボード:機関銃を搭載した船

 

【解説】

アルバムの表題ともなっている”bends”。その意味は「減圧症」です。

減圧症(げんあつしょう)

気圧の高い場所から低い場所に急に移動した際に体内に気泡が形成されることによって生じる症状。(中略)麻痺やけいれん,運動障害やめまい,しびれ,吐き気,言語障害などの症状が現れることがある

出典:ブリタニカ国際大百科事典 

 なぜ『Creep』で人気絶頂となった彼らが、こんな不気味な病名を曲名に、そしてアルバムのタイトルにしたのでしょうか?

 

早すぎた「成功」という名の疎外感

デビュー作『Pablo Honey』(もとい『Creep』)で、一躍トップスターに駆け上がったレディオヘッド。順風満帆に見えるその裏で、彼らは苦しみもがいていました。

『Creep』を求める世界ツアーによって、彼らの周囲は激変してしまったのです。仲良くしていた友人たちとは疎遠になり、目にするのはどこぞの誰とも知らない”ファン”たちだけ。そしてたいして気に入っていない曲を延々と演奏し続ける毎日。

この環境の変化は、彼らにとって好ましいものではありませんでした。『Pablo Honey』は半ば無理やり作らされたようなアルバムでしたし、それが世間に受け入れられることは彼らにとっては望んだものではありませんでした。本当に言いたいことは言えず、その代償にいろいろなものを差し出さなければいけませんでした。そんな状況に対する怒りを、トムは曲として書きなぐりました。それが『The Bends』なのです。

 

"The Bends"はRadioheadによる"Help!"

"bends"は前述の通り「減圧症」を指します。この症状は、気圧の高いところから低いところに移動した際に起こります。

例えば、潜水夫が海底から急に海面に上がったとき、あるいは、飛行機が機内を密閉する前に離陸して、空高く上昇してしまったときに生じます。

トムはバンドの状況を、まるで急上昇した飛行機の中にいるみたいだと考えました。以前は正しい場所にいたのに、いまは間違っている場所に来てしまったと。そして、そばにいたはずの友人たちは、成功という名の急激な上昇によって"bends"にかかって姿を消してしまったんだと。

みんな”bends”になってしまったのか?
(中略)

ああ、彼女も”bends”になってしまった
なんてこった
やっぱり本当の友人なんていないんだ
いやだ、いやだ!

この「空気の薄さ」は人間関係の比喩としても機能しています。ライブ、ファン、そして音楽業界の「空気」は薄く、友人の安心感とは程遠いものでした。彼らは成功の裏で、必死に生きている実感を求めていたのです。

冒頭の動画は1994年当時のライブ映像ですが、ご覧の通りトム・ヨークは怒りと悲しみに満ちています。まるでジョン・レノンが『Help!』で心の内をさらけ出したように、Radioheadも心の底から助けを求めていたのです。

ぼくらはここからどこに向かうんだ?
そんな言葉がふいについて出てくる
きみ(※)はいまどこにいるんだ?
ぼくが必要としているのに… 

まだ『OK Computer』も『Kid A』も世の中に存在しなかった時代です。当時の彼にとっては、先の見えない未来はただただ不安でしかなかったことでしょう。

ちなみに、この部分の歌詞の「きみ」は単にガールフレンドを指しているかもしれませんし、『Creep』で片思いをしていた女性をまだ引きずっているだけかもしれません。はたまた『Lift』でも登場した「天使的な何か」を求めているのかもしれません。

曲の最後の盛り上がりでトムは次のように叫びます。

ぼくは生きたい 呼吸をしたい
ぼくは人類の一部になりたい
人類の…人類の…

彼には心の拠り所が必要だったのです。「生きている」という実感、そして「所属している」という実感。

これはマズローの5段階説でいうところの「欠乏欲求」です。あのピラミッドの土台部分。人間が最低限求める、本当につつましい欲求です。こんなセリフ、とても成功した人間の言葉とは思えません。

 

The BeatlesといいRadioheadといい、急激な成功は強烈な圧力として人間を押しつぶすものなのでしょうか。でもその圧力のおかげで彼らは成長・変化し、その後の音楽革命を起こすことができたのも事実です。

これは皮肉なのか、はたまた運命なのか...。

何にせよ、トムがバンドを解散しなくて本当に良かった。それだけは確実に言えます。

彼らには本当に感謝しかありません。

ありがとうトム!ジョニー!コリン!エド!フィル!

 

 

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【歌詞解説】Fake Plastic Trees / Radiohead - ニセモノの世界でも失われないもの。それは人間の強さ。

『The Bends』のシンプル構成のシングル曲。
オールタイムベストに選ばれる、レディオヘッドの初期の名曲。
執拗なまでに繰り返される「ニセモノ」への対抗意識を込めた普遍的なラブソング

【歌詞】

Her green plastic watering can
For a fake Chinese rubber plant
In a fake plastic earth
That she bought from a rubber man
In a town full of rubber plans
To get rid of itself

It wears her out
It wears her out
It wears her out
It wears her out

She lives with a broken man
A cracked polystyrene man
Who just crumbles and burns
He used to do surgery
For girls in the 80s
But gravity always wins

And it wears him out
It wears him out
It wears him out
It wears him out

She looks like the real thing
She tastes like the real thing
My fake plastic love
But I can't help the feeling
I could blow through the ceiling
If I just turn and run

And it wears me out
It wears me out
It wears me out
It wears me out

And if I could be who you wanted
If I could be who you wanted
All the time
All the time

 

【日本語訳】

彼女は緑色のプラスチックのじょうろで
ゴムでできた偽物の木に水をあげる
この偽物のプラスチックの土地で

そのじょうろはゴムみたいな男から
ゴムみたいな計画であふれた街で買った
街が自身を否定するような街で

それが彼女をすり減らす…
彼女をすり減らす…

彼女は希望を失った男と住んでいる
ひび割れたポリスチレンの
粉々になって燃えゆく男と

彼は医者をしていた
80年代の女の子のために
でも決して抗えないものがあるんだ

それが彼をすり減らす…
彼をすり減らす…

ああ、彼女は本物なんだ
彼女は本物の味がするんだ
ぼくの偽物のプラスチックみたいな愛
でもぼくはその愛をどうしても感じてしまう
ぼくが風に吹かれて天井を越えられたなら…
もしぼくが振り向いて、走り出せたなら…

そんな想いが
ぼくをすり減らす…
ぼくをすり減らす…

もしぼくが
君の望む姿であれたなら…
君の望む姿であれたなら…
ずっと…
ずっと…

 

【解説】

本作はとある街を舞台にした物語になっています。

ニセモノであふれた街で生きる「彼女」と「彼」。そしてそんな不条理を感じつつも愛という感情を捨てきれない「ぼく」。

彼らを通して、トムは一体何を表そうとしているのでしょうか?

本作の舞台『カナリー・ワーフ』とは?

この舞台のモチーフとなったのが、『カナリー・ワーフ』という大規模な金融都市だとされています。この都市はロンドンの東部に位置する川沿いの街で、19世紀初頭から第二次世界大戦でドイツ軍に空襲される1940年代まで、商業埠頭として栄えていました。戦後復興を果たすものの、輸送手段の近代化の波についていけず、1980年代に港としての役目を終えることとなりました。

その後、この街は再開発地区となります。当初は小規模な商業施設を誘致する計画だったのですが、1980年代後半に入ると状況は変化し始めます。再開発地区ではモダンで巨大フロアのビル建設が可能だったため、ここに目をつけた多国籍金融企業が大規模オフィスを次々に建て始めたのです。(当時のロンドン中心部では、そうした近代的な建造物の建設は承認されなかったため、多くの従業員を抱える企業たちはこぞって集まってきたのです)

そしていま、この街はイギリスの三大高層ビルが集う、イギリスきっての超高層ビル金融街として知られることとなりました。

(最も高い「ワン・カナダ・スクウェア」は、なんと235メートルという巨大さです)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/df/Canary_Wharf_Skyline_2%2C_London_UK_-_Oct_2012.jpg/1920px-Canary_Wharf_Skyline_2%2C_London_UK_-_Oct_2012.jpg

出典:カナリー・ワーフ - Wikipedia

 

失われたもの、目的を失った街

『Fake Plastic Trees』は、この変わり果ててしまった街で生きる人たちの視点で、人間性を欠いた現代社会を表現しています。

彼女は緑色のプラスチックのじょうろで
ゴムでできた偽物の木に水をあげる
この偽物のプラスチックの土地で

そのじょうろはゴムみたいな男から
ゴムみたいな計画であふれた街で買った
街が自身を否定するような街で

それが彼女をすり減らす…
彼女をすり減らす…

どう表現したらいいのでしょうか...。

みんな目が死んでいる、そんな風景しか浮かんできません。

彼女は希望を失った男と住んでいる
ひび割れたポリスチレンの
粉々になって燃えゆく男と

彼は医者をしていた
80年代の女の子のために
でも決して抗えないものがあるんだ

それが彼をすり減らす…
彼をすり減らす…

きっと「彼」も昔は熱意を燃やしていたのでしょう。

でも抗えないものの存在(例えば自分では治せない不治の病気のようなもの)を前に、希望を失ってしまったのです。

そして「彼」もこのニセモノの世界で、何も目的もなく生きるのです。

 

古き良きものが必ずしも正しいとは言いませんが、この新しい街は人間性をあまりに欠いているのです。金融街が資本操作のために組み上げたシステムは、もはや何の目的で存在するか誰もわからないのです。

ともすると「Fake Plastic Trees(ニセモノのプラスチックの木)」とは、このビル群そのものを指しているのかもしれません。

 

決して失われないもの、人間の強さ

でもこんな世界の中でも「ぼく」はある想いを感じてしまうのです。

彼女は本物なんだ
彼女は本物の味がするんだ
ぼくの偽物のプラスチックみたいな愛
でもぼくはその愛をどうしても感じてしまう

この愛は、とある女性に向けたものと考えても良いですし、人間性への回帰と考えても良いと思います。大事なのは、街がどれだけニセモノでも(ぼくがニセモノに支配されても)、この心だけは疑いようのない本物だということです。

ちょうど哲学者のニーチェが「世俗的なものの支配から脱して、大地に忠実になれ」と説いたように、トムも「生き物としての温かみを失ってはいけない!」と叫んでいるのです。

曲の盛り上がりに合わせ、彼はその愛に忠実にあろうとします。

でもあまりに世界は大きすぎて、結局は押しつぶされてしまいます。

ぼくが風に吹かれて天井を越えられたなら…
もしぼくが振り向いて、走り出せたなら…

そんな想いが
ぼくをすり減らす…
ぼくをすり減らす…

ただ、彼は諦めていません。 

もしぼくが
君の望む姿であれたなら…
君の望む姿であれたなら…
ずっと…
ずっと…

この「人としての感情を認める」という気持ちこそが人間性であり、人間を人間たらしめる強さなのです。次のアルバム『OK Computer』時代と違い、この時期の曲には「憤り」と同じくらい「希望」が込められているところが『The Bends』の魅力かなと思っています。

 

さいごに

PVでも監視された社会で息苦しく生きている人間がうまく描かれています。

我々は所詮、この社会の中で生きるしかないという諦めの感情が伝わってきます。ショッピングカートに乗るメンバーたちの姿は、自分たちが消費社会の1商品でしかないことを揶揄しているようです。

ただPVの終盤では、個人個人は確かに人間性を持っており、それが集まればきっと良い時代が来るのだという希望が展開されます。 

この曲の素晴らしさは、ただ自分しか見えていなかった『Creep』から、視点をひとつもふたつも上げ、「社会性」という普遍的なテーマを取り込んだ点にあると私は考えています。

 

本当のRadioheadはこの曲から始まったのです。

 

その意味でも、この曲はRadioheadの歴史を語る上で重要な1曲なのです。

 

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