深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Fake Plastic Trees / Radiohead - ニセモノの世界でも失われないもの。それは人間の強さ。

『The Bends』のシンプル構成のシングル曲。
オールタイムベストに選ばれる、レディオヘッドの初期の名曲。
執拗なまでに繰り返される「ニセモノ」への対抗意識を込めた普遍的なラブソング

【歌詞】

Her green plastic watering can
For a fake Chinese rubber plant
In a fake plastic earth
That she bought from a rubber man
In a town full of rubber plans
To get rid of itself

It wears her out
It wears her out
It wears her out
It wears her out

She lives with a broken man
A cracked polystyrene man
Who just crumbles and burns
He used to do surgery
For girls in the 80s
But gravity always wins

And it wears him out
It wears him out
It wears him out
It wears him out

She looks like the real thing
She tastes like the real thing
My fake plastic love
But I can't help the feeling
I could blow through the ceiling
If I just turn and run

And it wears me out
It wears me out
It wears me out
It wears me out

And if I could be who you wanted
If I could be who you wanted
All the time
All the time

 

【日本語訳】

彼女は緑色のプラスチックのじょうろで
ゴムでできた偽物の木に水をあげる
この偽物のプラスチックの土地で

そのじょうろはゴムみたいな男から
ゴムみたいな計画であふれた街で買った
街が自身を否定するような街で

それが彼女をすり減らす…
彼女をすり減らす…

彼女は希望を失った男と住んでいる
ひび割れたポリスチレンの
粉々になって燃えゆく男と

彼は医者をしていた
80年代の女の子のために
でも決して抗えないものがあるんだ

それが彼をすり減らす…
彼をすり減らす…

ああ、彼女は本物なんだ
彼女は本物の味がするんだ
ぼくの偽物のプラスチックみたいな愛
でもぼくはその愛をどうしても感じてしまう
ぼくが風に吹かれて天井を越えられたなら…
もしぼくが振り向いて、走り出せたなら…

そんな想いが
ぼくをすり減らす…
ぼくをすり減らす…

もしぼくが
君の望む姿であれたなら…
君の望む姿であれたなら…
ずっと…
ずっと…

 

【解説】

本作はとある街を舞台にした物語になっています。

ニセモノであふれた街で生きる「彼女」と「彼」。そしてそんな不条理を感じつつも愛という感情を捨てきれない「ぼく」。

彼らを通して、トムは一体何を表そうとしているのでしょうか?

本作の舞台『カナリー・ワーフ』とは?

この舞台のモチーフとなったのが、『カナリー・ワーフ』という大規模な金融都市だとされています。この都市はロンドンの東部に位置する川沿いの街で、19世紀初頭から第二次世界大戦でドイツ軍に空襲される1940年代まで、商業埠頭として栄えていました。戦後復興を果たすものの、輸送手段の近代化の波についていけず、1980年代に港としての役目を終えることとなりました。

その後、この街は再開発地区となります。当初は小規模な商業施設を誘致する計画だったのですが、1980年代後半に入ると状況は変化し始めます。再開発地区ではモダンで巨大フロアのビル建設が可能だったため、ここに目をつけた多国籍金融企業が大規模オフィスを次々に建て始めたのです。(当時のロンドン中心部では、そうした近代的な建造物の建設は承認されなかったため、多くの従業員を抱える企業たちはこぞって集まってきたのです)

そしていま、この街はイギリスの三大高層ビルが集う、イギリスきっての超高層ビル金融街として知られることとなりました。

(最も高い「ワン・カナダ・スクウェア」は、なんと235メートルという巨大さです)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/df/Canary_Wharf_Skyline_2%2C_London_UK_-_Oct_2012.jpg/1920px-Canary_Wharf_Skyline_2%2C_London_UK_-_Oct_2012.jpg

出典:カナリー・ワーフ - Wikipedia

 

失われたもの、目的を失った街

『Fake Plastic Trees』は、この変わり果ててしまった街で生きる人たちの視点で、人間性を欠いた現代社会を表現しています。

彼女は緑色のプラスチックのじょうろで
ゴムでできた偽物の木に水をあげる
この偽物のプラスチックの土地で

そのじょうろはゴムみたいな男から
ゴムみたいな計画であふれた街で買った
街が自身を否定するような街で

それが彼女をすり減らす…
彼女をすり減らす…

どう表現したらいいのでしょうか...。

みんな目が死んでいる、そんな風景しか浮かんできません。

彼女は希望を失った男と住んでいる
ひび割れたポリスチレンの
粉々になって燃えゆく男と

彼は医者をしていた
80年代の女の子のために
でも決して抗えないものがあるんだ

それが彼をすり減らす…
彼をすり減らす…

きっと「彼」も昔は熱意を燃やしていたのでしょう。

でも抗えないものの存在(例えば自分では治せない不治の病気のようなもの)を前に、希望を失ってしまったのです。

そして「彼」もこのニセモノの世界で、何も目的もなく生きるのです。

 

古き良きものが必ずしも正しいとは言いませんが、この新しい街は人間性をあまりに欠いているのです。金融街が資本操作のために組み上げたシステムは、もはや何の目的で存在するか誰もわからないのです。

ともすると「Fake Plastic Trees(ニセモノのプラスチックの木)」とは、このビル群そのものを指しているのかもしれません。

 

決して失われないもの、人間の強さ

でもこんな世界の中でも「ぼく」はある想いを感じてしまうのです。

彼女は本物なんだ
彼女は本物の味がするんだ
ぼくの偽物のプラスチックみたいな愛
でもぼくはその愛をどうしても感じてしまう

この愛は、とある女性に向けたものと考えても良いですし、人間性への回帰と考えても良いと思います。大事なのは、街がどれだけニセモノでも(ぼくがニセモノに支配されても)、この心だけは疑いようのない本物だということです。

ちょうど哲学者のニーチェが「世俗的なものの支配から脱して、大地に忠実になれ」と説いたように、トムも「生き物としての温かみを失ってはいけない!」と叫んでいるのです。

曲の盛り上がりに合わせ、彼はその愛に忠実にあろうとします。

でもあまりに世界は大きすぎて、結局は押しつぶされてしまいます。

ぼくが風に吹かれて天井を越えられたなら…
もしぼくが振り向いて、走り出せたなら…

そんな想いが
ぼくをすり減らす…
ぼくをすり減らす…

ただ、彼は諦めていません。 

もしぼくが
君の望む姿であれたなら…
君の望む姿であれたなら…
ずっと…
ずっと…

この「人としての感情を認める」という気持ちこそが人間性であり、人間を人間たらしめる強さなのです。次のアルバム『OK Computer』時代と違い、この時期の曲には「憤り」と同じくらい「希望」が込められているところが『The Bends』の魅力かなと思っています。

 

さいごに

PVでも監視された社会で息苦しく生きている人間がうまく描かれています。

我々は所詮、この社会の中で生きるしかないという諦めの感情が伝わってきます。ショッピングカートに乗るメンバーたちの姿は、自分たちが消費社会の1商品でしかないことを揶揄しているようです。

ただPVの終盤では、個人個人は確かに人間性を持っており、それが集まればきっと良い時代が来るのだという希望が展開されます。 

この曲の素晴らしさは、ただ自分しか見えていなかった『Creep』から、視点をひとつもふたつも上げ、「社会性」という普遍的なテーマを取り込んだ点にあると私は考えています。

 

本当のRadioheadはこの曲から始まったのです。

 

その意味でも、この曲はRadioheadの歴史を語る上で重要な1曲なのです。

 

 <あわせて読むともっと深読み>

【歌詞解説】Karma Police / Radiohead - 自分勝手な行いは自分に返ってくる

『OK Computer』のセカンドシングル。本国での人気も高い。
PVはトムの乗った車が一人の男性を追いかけるストーリー。
実は追いかけられている男性もトム自身を表していると言われている。

【歌詞】

Karma police
Arrest this man, he talks in maths
He buzzes like a fridge
He's like a detuned radio
Karma police, arrest this girl
Her Hitler hairdo is making me feel ill
And we have crashed her party

This is what you'll get
This is what you'll get
This is what you'll get
When you mess with us

Karma police
I've given all I can, it's not enough
I've given all I can, but we're still on the payroll

This is what you'll get
This is what you'll get
This is what you'll get
When you mess with us

For a minute there
I lost myself, I lost myself
Phew, for a minute there
I lost myself, I lost myself
For a minute there
I lost myself, I lost myself
Phew, for a minute there
I lost myself, I lost myself

 

 

【日本語訳】

カーマポリス
あの男を捕まえてくれよ
あいつは全部理詰めで話すんだ
冷蔵庫が唸るみたいにさ
まるで壊れたラジオみたいだ
カーマポリス
あの女を捕まえてくれよ
あいつのヒトラーみたいな髪型が
俺を不快にさせるんだ
だから俺たちはあいつのパーティを壊してやったんだ

これが代償さ
これが代償さ
これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

カーマポリス
俺はできる限り捧げたよ
まだ足りないってのか?
俺はできる限り捧げたよ
なのにまだ俺たちはその名簿に載ってるのか?

これが代償さ
これが代償さ
これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

ああ、すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

【解説】

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『OK Computer』の中で、ひいては、Radioheadのキャリアの中でも最も人気の高い曲の1つです。あのOasisノエル・ギャラガーでさえこの曲は好きだと言っていたそうです(彼はツンデレなんでしょうか・・)

Granted, some of the stuff on Amnesiac is brilliant. The Bends is the bollocks. Karma Police is mega. But they don't want people like me to like their music so they can go and fuck themselves.

- たしかにAmniesiacのいくつかの曲はスゲえよ。んでもThe Bendsはクソだ。けどKarma Policeはマジパねえ。でもあいつらは俺みたいなやつに曲を好きだなんて言われたくないんだろ?マジxx野郎どもが!

引用:Oasis Interviews Archive: May 2002

 

Karma(カルマ)の警察とは?

この曲は、レディオヘッドにしては比較的わかりやすい歌詞となっています。

まず『Karma Police』というのはトムの造語です。『Karma』は仏教用語の「カルマ(善い・悪い行いに対する報い)」のことで、日本人には理解しやすい概念だと思われます。

よく母親が子供に言う「よくないことをしたら自分に返ってくるの」や、誰かの身勝手な振る舞いに対して「あんなやつは将来ろくなことにならない」と後ろ指を指したりするアレです。

トムはその考えを一歩進めました。運命に任せるのではなく、現実世界で彼らに報いを与える存在がいてくれたらなあと。それが『Karma Police(カルマ警察)』なのです。

※『Karma Police』という造語は、『OK Computer』収録当時のバンドが皮肉めいたジョークとして使っていたそうです。サイドギターエド・オブライエンがそれをタイトルにした曲を作ろうと言いだしたとのこと

 

怒りの向き先は?

まずトムは二人の人物を引き合いに出します。

カーマポリス
あの男を捕まえてくれよ
あいつは全部理詰めで話すんだ
(中略)
あの女を捕まえてくれよ
あいつのヒトラーみたいな髪型が
俺を不快にさせるんだ

「論理的な男性」と「きらびやかな女性」。ともにトムが嫌悪感を示す対象として描かれています。

「男」は数学には強いけれど人の心がわからない、きっとすぐ「はい論破」などと言ったりする人物なのでしょう。

「女」は綺麗に髪型を整えた女性。それだけなら何も不快に思うことはないので、きっと必要以上に見栄を張ったり、着飾ったりしている人物なのでしょう。

https://images.genius.com/4ab19f94e916ea80677da974efa82d2e.707x1000x1.jpg

出典:Radiohead – Karma Police Lyrics | Genius Lyrics

 

この2者に共通するのは「自分のことしか考えていない」という点です。彼らは自らを悪いと思っていないので、往々にしてこの世には、このような人物が幅を利かせていることが多いのです。

レディオヘッドが「七つの大罪」を念頭に置いていたかはわかりませんが、おそらく前者の行く末は「強欲」(資本操作)であり、後者は「虚飾」なのでしょう)

 

世の中に対する怒り、対抗する主人公

トムは彼らに対する怒りをあらわにします。

だから俺たちはあいつのパーティを壊してやったんだ

これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

トムはカーマポリスがやってくれないので、自分で行動に移しちゃいました。普通できないですよね。優先席を譲らない中学生にも注意できないのに、私にはこんな大それたことできません。

みんなからは拍手喝采。「よくやった!」という声も聞こえてきそうです。トムもきっとカーマポリスに褒められると思いました。でも・・・

カーマポリス
俺はできる限り捧げたよ
まだ足りないってのか?
俺はできる限り捧げたよ
なのにまだ俺たちはその名簿に載ってるのか?

なんとトム自身が逮捕名簿に載っているではありませんか!

 

怒りに任せる行為。それすら業のひとつ。

なんということでしょう。
良いことをしたはずなのに?

そうなのです。主人公は良いことをしたと思っていますが、この怒りこそ「自分のことしか考えていない」行為にほかならなかったのです。やられたからやり返す。それでは負の連鎖が続くだけです。争いは終わりません。

なので、2番のサビは1番と全く同じですが、実は視点が逆転しているのです。(「男」と「女」から主人公自身へ投げかけられるセリフになっています)

これが代償さ
これが代償さ
これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

ゾワッとしますね。

 

怒りでは何も解決しない

そこで主人公は気付くんですね。

自分勝手な行いは自分に返ってくるということを。

すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

怒りのせいで主人公は我を忘れていたのです。カーマポリスは決して自分の味方ではないのです。自分は皆と同じく、等しく裁かれる罪人の一人でしかなかったのです。

PVでもこの点がうまく表現されています。

追いかけている自分自身が最後には火で炙られて裁かれるのです。追いかけられている男性の方が、実はトム自身だったと考えるのが自然なのかもしれません。

 

では、これから主人公はどうすればいいんでしょう。この怒りを、この悲しみを誰にぶつければいいんでしょう。

あてもないまま、主人公はただ呆然と立ち尽します。

すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

それが曲の最後のリフレインなのです。

結局この感情はどこに行くこともないのです。

 

きっと彼はまたカーマポリスに頼ることになるでしょう。

自分が裁かれると分かっていても・・・。

 

 <あわせて読むともっと深読み>

追いかけている自分自身が裁かれる側だったという、同じプロットの楽曲です

jellyhead.hateblo.jp

【歌詞解説】Optimistic / Radiohead - 巨大な多国籍企業が地球を蹂躙する

『Kid A』に収録されたタムの規則的なリズムが印象的なロックナンバー。
2001年以降のライブでもたびたびセットリストに上がっている。
歌詞はカナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの著書『ブランドなんか、いらない(原題:No Logo)』に影響を受けたと言われる。

【歌詞】

Flies are buzzing around my head
Vultures circling the dead
Picking up every last crumb
The big fish eat the little ones
The big fish eat the little ones
Not my problem give me some

You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough
You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough

This one's optimistic
This one went to market
This one just came out of the swamp
This one drops a payload
Fodder for the animals
Living on an animal farm

You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough
You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough

I'd really like to help you man
I'd really like to help you man
Nervous messed up marionette
Floating around on a prison ship

You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough
You can try the best you can
You can try the best you can
Dinosaurs roaming the earth
Dinosaurs roaming the earth
Dinosaurs roaming the earth

 

【日本語訳】

ハエが僕の頭のまわりを飛び回っている
ハゲタカが死体のまわりを旋回している
そして最後のひとかけらまでついばんでいる
大きな魚が小さな魚を喰らう
大きな魚が小さな魚を喰らう
まあ僕には関係ないや、わけておくれよ

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ
(※繰り返し)

そんな誰かの楽観主義
これはマーケットに行き
そしてちょうど沼から這い出てきた
放り投げられた荷物は
家畜小屋で暮らす動物たちの飼料になる

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ
(※繰り返し)

ああ僕は君をそこから救い出したいんだ
僕は君をそこから救い出したいんだ
神経質に混乱したマリオネットが
海の監獄の上を飛び回っている

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ
(※繰り返し)

恐竜が地球を蹂躙している
恐竜が地球を蹂躙している
恐竜が地球を蹂躙している

【解説】

「Optimistic」とは「楽観的な」という意味の単語です。

この一見ポジティブなタイトルと『Kid A』における唯一のロックアンサンブルに騙されそうになりますが、この曲の本質は巨大企業による搾取への批判なのです。

「ハゲタカ」「大きな魚」そして「恐竜」

この曲の歌詞はカナダ出身のジャーナリスト、ナオミ・クラインの著書『ブランドなんか、いらない(原題:No Logo)』に影響を受けたと言われています。

『ブランドなんか、いらない』(1999年出版)

この著作では基本的に経済的なグローバリゼーションを背景としながら成長している多国籍企業での労働の実態を描き出している。

(中略)クラインの意図とは、世界を超えて広がりつつある経済システムと企業の権力について分析を加えることによって、新しい市民運動の可能性を示すことにあった。

(出典)ブランドなんか、いらない - Wikipedia

トムはこれら巨大多国籍企業による資本活動を以下のように表現しました。

ハゲタカが死体のまわりを旋回している
そして最後のひとかけらまでついばんでいる
大きな魚が小さな魚を喰らう
(中略)
恐竜が地球を蹂躙している

「ハゲタカ」「大きな魚」は弱い者を食い物にする強欲な人間、「恐竜」は巨大になりすぎた多国籍企業の暗喩です。これらの企業は、発展途上国の安価な労働力を食い物にして大きくなりました。

 

「楽観主義者」は搾取に加担している無自覚な消費者(私たち)

またクライン氏は前述の書籍においてこのような批判を展開しています。

(これらの巨大多国籍企業が)自社のブランドを計画的に形成しながら都市、音楽、スポーツ、学校、社会運動などに展開させ、自社の知名度と影響力を国際的に拡大し続けてきた。

(出典)ブランドなんか、いらない - Wikipedia

恐ろしいことに、我々は知らず知らずのうちに、彼らが搾取の上で提供しているものを「良いもの・格好いいもの」として認識してしまっているのです。

  • イケてる大人は車を乗り回すのさ(シェル石油
  • スポーツシューズを履いて汗を流すのっていいよね!(ナイキ)
  • I'm loving it!(マクドナルド)

トムはこれらのプロパガンダ何の疑いもなく信じ、そして消費してしまっている人間たちを「楽観主義」と揶揄したのです。

まあ僕には関係ないや、わけておくれよ

家畜小屋で暮らす動物

神経質に混乱したマリオネット

とても、とても痛烈な批判です。
これは彼ら(私たち)を客観的に捉えた姿なのです。

「精一杯やればいいんだよ」という幻想

最後に、この楽曲の骨子に迫ります。

トムはサビで「楽観主義者」の声をあえて代弁することで資本主義の原則である「機会の平等」という幻想を皮肉ります。

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ

「楽観主義者」たちは、努力はいずれ報われるものと考えています。先進国の多くの人間は、途上国の住人が経済的に浮かび上がれないのは努力が足りないからだと冷ややかに捉えている節があります。

でもこの考えは正しくありません。巨大多国籍企業が牛耳る世界ではいくら頑張っても、搾取される人間は決して報われません。社会の構造はある地点を境に決定的にねじ曲がっており、搾取される側は常に搾取され続けるようにできているのです。

そして彼らを海の上の監獄に閉じ込めているのは、他でもない「楽観主義者」である我々なのです。我々がこの消費を止めない限りは、この巨大な恐竜はずっと地球にのさばり続けるのです。

 

さいごに:変わりつつある社会

前述の書籍や『Kid A』が世に出た前後から、世論も次第に変わりつつあります。
世間に衝撃を与えた「ナイキ問題」は記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。

ナイキのビジネスモデルは(中略)発展途上国の労働者からの「搾取」もあって、成り立っていたのだ。

1997年、ナイキが委託するインドネシアベトナムといった東南アジアの工場で、低賃金労働、劣悪な環境での長時間労働、児童労働、強制労働が発覚。この事態に米国のNGOなどがナイキの社会的責任について批判した。世界的な製品の不買運動が起こり、経済的に大きな打撃を受けた。

(出典)米ナイキが苦難の末に学んだ、CSRとは? | ここが変だよ!日本のCSR | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

ただこの事件は氷山の一角にすぎません。

問題の本質は社会の根深いところにあり、根本解決にはまだまだ時間がかかります。私たちはきちんと目を開いて世界を見なければいけません。

果たして、あなたがいま手にしているスマートフォンは、一体どこで作られたものなのでしょうか。

 

 

<あわせて読むとさらに深読み>

 

【歌詞解説】15 Step / Radiohead - 我々を振り回す最大のものは?

In Rainbows』に収録された5拍子のダンスチューン。
本アルバムはグラミー賞で、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞を受賞した。

【歌詞】

How come I end up where I started?
How come I end up where I went wrong?
Won't take my eyes off the ball again
You reel me out then you cut the string
How come I end up where I started?
How come I end up where I went wrong?
I won't take my eyes off the ball again
First you reel me out and then you cut the string

You used to be alright, what happened?
Did the cat get your tongue?
Did your string come undone?
One by one, one by one
It comes to us all, it's as soft as your pillow

You used to be alright, what happened?
Et cetera, et cetera
Fads for whatever (Yeah!)
Fifteen steps then a sheer drop

How come I end up where I started?
How come I end up where I went wrong?
Won't take my eyes off the ball again
You reel me out then you cut the string

 

【日本語訳】

どうして始まった場所で終わるの?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さないよ
あんたは俺を引き上げて、糸を切るんだ

どうして始まった場所で終わるんだ?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さない
あんたはまず俺を引き上げてから、糸を切るんだ

君は問題なかったのに、何があったの?
どうして黙っているんだい?
君の糸はほどけてしまったの?
1本ずつ、1本ずつ
それは俺たち全員にふりかかる
枕と同じくらいの柔らかさで

君は問題なかったのに、何があったの?
そのほかに、そのほかに…
色んなのものに一時的に熱狂して
15段のぼった先には、切り立った崖

どうして始まりの場所で終わるんだ?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さない
だってあんたは俺を引き上げて、糸を切るんだ


<主要単語>
・How Come:なにが原因で、どうして(≒Why)
・Cat got your tongue?:「どうして黙っているの?」という慣用句(主に子供に使う)
・One by one:1つずつ
・Fad:一時的な熱狂

 

【解説】

In Rainbows』の1曲目を飾る変拍子のダンスチューン。このアルバムは2007年にバンド自身が、リスナーが価格を自由に決められる「It's up to you(あなた次第)」形式でインターネットリリースし、当時の音楽業界を震撼させました。(後にCD版でもリリースされ、UK・USともに1位を記録)

※このリリースの背景には、当時のレーベルEMIとの契約が影響していると言われています。前作『Hail to the Thief』で契約満了となった彼らは、過去の作品がレーベル側による一方的な扱いを受けていることに憤りを感じており、バンドというものが自らの作品をコントロールできる世界を望んでいたのです。

(参考:レディオヘッド、トムが異例の反論メッセージを公式サイトにUP

 

逆らうことができない憤り 

この曲のテーマは「振り回される者の憤り」です。

どうして始まった場所で終わるんだ?
どうして最後に道を踏み外して終わる?

(中略)

君は俺を引き上げて、糸を切るんだ

 

意図しない始まりと終わりを迎える、
魚のように引き上げられ、そしてまた海に返される、
そして自分はそれに逆らうことはできない、
(じっと注意を払うしかできない)
そんな理不尽な情景です。

彼らは「自分ではどうしようもない現象」をこの楽曲で表現しました。
(前述のEMIもその「振り回す者」の一つですね)

 

歌詞に散りばめられた暗喩

彼らは何に怒っているのでしょうか?
曲中では、それが何かはあえて明示していません。

でも実は様々な暗喩がちりばめられています。

君は問題なかったのに、何があったの?
どうして黙っているんだい?
君の糸はほどけてしまったの?
1本ずつ、1本ずつ

「糸」がほどけて、黙ってしまう人。

それは俺たち全員にふりかかる
枕と同じくらいの柔かさで

「全員に降りかかる」もの。

「枕のような柔らかさ」で訪れるもの。

15段のぼった先には、切り立った崖

そして「15 Step」とその先の崖(=絞首刑台の比喩)

これらはすべて「死」の暗喩なのです。

 

我々を振り回す最大のもの。それは・・・

この曲は、我々は何者かに振り回された結果「死」に追い込まれてしまう・・・とうたっているのでしょうか?

いえ、それではこの曲の半分しか表現できていません。

曲の始まりをもう一度見てみましょう。

どうして始まった場所で終わるの?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さないよ
あんたは俺を引き上げて、糸を切るんだ

どうでしょうか。「道を踏み外して終わる」と「糸を切る」はまさしく死の連想ですが、一方の「始まった場所」や「引き上げる」はどのような意味を持つでしょうか?
それに「今度は」という表現も。

歌詞に注釈を入れるとこのようになるでしょう。

あんたは(この世に)俺を引き上げて
糸を切る(また死の国に送り返す)んだ

おそらくこの曲には、輪廻転生的な死生観がベースとして存在するのでしょう。

彼らが描くこの世界では、何度でもやり直しを強要され、そして何度でも苦しみを与えられる。そうです、我々を振り回す最大のものは「生命」や「社会」そのものだったのです。

 

「この世に生まれ落ちてから、この世界に振り回されっぱなしだよ、チクショウ」

 

そんな不条理な世の中に対する憤りなのです。

 

だからどうしようという答えは、いつものように提示されません。
ただ、この事実を意識して生きるのと、のほほんと生きるのでは世界はまるで変わって見えるはずです。

彼らにとってのこの世界はまさに変拍子であり、
それはプラグを抜かれた僕らから見える景色でもあるのです。

 

 

【歌詞解説】Last Flowers / Radiohead - 孤児院にひとりぼっちの子供

湊かなえ原作の日本映画『告白』のテーマソングに使用された。
In Rainbows』のDisc2に収録されている。
トム曰く、孤児院をイメージして書いた曲だという。

【歌詞】

Appliances have gone berserk
I cannot keep up
Treading on people's toes
Snot-nosed little punk

And I can't face the evening straight
You can offer me escape
Houses move and houses speak
If you take me there you'll get
Relief, relief
Relief, relief

And if I'm gonna talk
I just wanna talk
Please don't interrupt
Just sit back and listen

Cause I can't face the evening straight
You can offer me escape
Houses move and houses speak
If you take me there you'll get
Relief, relief
Relief, relief
Relief, relief

It's too much
Too bright
Too powerful
Too much
Too bright
Too powerful
Too much
Too bright
Too powerful
Too much
Too bright
Too powerful

 

【日本語訳】 

電化製品はうなりを上げていて
ぼくにはどうすることもできない
それは人々のつま先にのしかかっていて
まるで、はなをたらしたチンピラみたいだ

ぼくは夜を直視できないんだ
あなたは逃げたらいいよって言うんだけど...
家々が動き出し、そして喋っている
もしあなたがぼくを向こうまで連れていけたら
あなたは安心できるだろうね...
安心できる...

ぼくが話をしようとしていたら
それは本当にただ話がしたいだけなんだ
どうかさえぎらないで
いすに座って聴いておくれよ

だってぼくは夜を直視できないから...
あなたは逃げたらいいよって言うんだけど...
家々が動き出し、そして喋っている
もしあなたがぼくを向こうまで連れていけたら
あなたは安心できるだろうね...
安心できる...

ああ、なんて...
なんて明るくて...
なんて力強い...
ああ、なんて...
なんて明るくて...
なんて力強い...
(※繰り返し)

【解説】

『最後の花』というタイトルの曲。このタイトル自体はトムが「オックスフォードにある病院への道にある看板から取った」らしく、おそらく何かしらの悲しみを象徴する言葉として引用したものだと考えられます。(参照元

曲は、孤児院でひとりぼっちの子供を主人公に見立てたものになっています。

 

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子供から見た怖い夜の世界

電化製品はうなりを上げていて
ぼくにはどうすることもできない

(中略)

ぼくは夜を直視できないんだ
あなたは逃げたらいいよって言うんだけど...
家々が動き出し、そして喋っている

 

主人公は子供によくある恐怖心を抱いています。
夜になると聞こえてくる電化製品の「ジージー」という音。
家が動いているような感覚。聞こえるはずのない声。

そしてここには頼る人がいません。孤児院の先生は「そんなの幻聴よ、忘れなさい」などというだけで、真剣に向き合ってくれません。

ぼくが話をしようとしていたら
それは本当にただ話がしたいだけなんだ
どうかさえぎらないで
いすに座って聴いておくれよ

きっと主人公はべそをかきながら訴えているんでしょう。
でも結局は一人。彼は諦めたようにつぶやきます。

もしあなたがぼくを向こう(there)まで連れていけたら
あなたは安心できるだろうね...
安心できる...

この曲は、孤独な子供から見た怖ろしい世界を描いているのです。

 

この子供は一体何の比喩なのか?

トムは子供の視点でとらえた恐怖心を比喩として、何か別のものを描こうとしているようです。そして訳ではあえて「向こう」と訳しましたが、この「there」の解釈で『Last Flowers』という曲は全く異なる側面を持つことになります。

 

解釈1:職員が「手を余らせている状態」とした場合

「there」は主人公を閉じ込める場所(例えば物置や精神病院など)になります。これで職員は気を揉むことがなくなりますね。

これを軸に考えると、この曲は「自分に見えている世界を伝えても、抑圧されてなかったことにされてしまう」というテーマ性を帯びることになります。

ぼくは夜を直視できないんだ
あなたは逃げたらいいよって言うんだけど...

この世界はもう「夜(終末)」に向かっている。それを感じて警鐘を鳴らしても、周りの人間は「そんなのたいしたことじゃない」とまともに相手をしてもらえません。

電化製品はうなりを上げていて
ぼくにはどうすることもできない

これらのキーワードも、行きすぎた文明社会の比喩として機能します。
ちょうど『Cymbal Rush』で描いた「様々な問題がふきだした状態」です。
これをもとに歌詞の最後を改変してみるとこうなります。

あまりにも...
あまりにも明るくて...
あまりにも力強い... 

これらも『The Tourist』の「Hey man, slow down. Slow down.」と類似する意味として成立します。文明は行きすぎている。あまりに強くなりすぎている、と。

 

解釈2:職員が「優しく包み込んでくれる存在」とした場合

こちらは一転、救いをテーマにした話になります。
職員は優しさの象徴として描かれます。

ぼくは夜を直視できないんだ
あなたは逃げたらいいよって言ってくれるけど...

(中略)

もしあなたがぼくをそこ(安息の地)まで連れていけたら
あなたはきっと安心できるだろうね...

(中略)

ああなんて...
なんて明るくて...
なんて力強い...

孤児院の子供は、現世に囚われたトム自身の比喩だったわけです。この世界から抜け出すこと、それこそが本当に安心できる状態なんだよというメッセージなのです。

そうです。『Last Flowers』は『Lift』と全く同じテーマの歌だったのです。「ああ神様、安心して。ぼくは大丈夫だから。でもできれば正しい世界に連れて行って欲しいな」というメッセージだったのです。

終盤の「なんて明るい..」は「there」に連れて行ってもらえたあとの風景なんでしょう。トムの歌詞には、間奏後の場面転換がけっこうな頻度で登場します。『No Suprises』の「Such a pretty house. And such a pretty garden」も同じ手法ですね。

 

 

さて、みなさんはどう考えられたでしょうか。

個人的には後者の解釈の方が希望があって好きです。

 

 

 

 

【訳者注】

冒頭部分「Appliances have gone berserk」を「電化製品が暴れ狂って」と直訳せずに「うなりを上げて」としました。これは後に出てくる「houses speak」とのつながりを示したかったのも要因ですが、同じく『Paranoid Android』冒頭の「Please, could you stop the noise?」との関連性を感じたことが大きいです。

発表時期こそ10年ほどの開きがあるものの、作曲はどちらも『OK Computer』の収録時期だったそうです。

アレンジが全く違うため関連が見えにくいですが、トムとしてはあの当時から一貫したテーマを掲げているのだと改めて感じた次第です。 

 

※サムネイル画像は映画『ぼくの名前はズッキーニ』から引用しました
(c)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS /

 

<あわせて読むとさらに深読み> 


  

【歌詞解説】Let down / Radiohead - 君は君の居場所を知っている

『OK Computer』に収録されたアルペジオが印象的な人気曲。
3本のギターが奏でる美しいハーモニーは20年経っても色褪せない。
エドがメインメロディを担当する曲としても有名。

【歌詞】

Transport, motorways and tramlines
Starting and then stopping
Taking off and landing
The emptiest of feelings
Disappointed people, clinging on to bottles
When it comes it's so, so, disappointing

Let down and hanging around
Crushed like a bug in the ground
Let down and hanging around

Shell smashed, juices flowing
Wings twitch, legs are going
Don't get sentimental, it always ends up drivel
One day, I am gonna grow wings
A chemical reaction
Hysterical and useless
Hysterical and

Let down and hanging around
Crushed like a bug in the ground
Let down and hanging around

Let down
Let down
Let down

You know, you know where you are with
You know where you are with
Floor collapsing, falling
Bouncing back and one day, I am gonna grow wings
A chemical reaction (you know where you are)
Hysterical and useless (you know where you are)
Hysterical and (you know where you are)

Let down and hanging around
Crushed like a bug in the ground
Let down and hanging around

 

【日本語訳】

輸送機関、高速道路、電車の線路
走り出し、そして止まる
空を飛んで、着陸する
感情をなくした世界
失望した人々、気力にべったりとこびりついている
何かがやってきても
それは決まってがっかりすることだ

失望して這いまわってる
踏み潰された虫みたいに
失望して這いまわってる

砲弾がぶつかって、血が流れる
翼をぴくぴく動かしながら、足は前に進もうとする
感情的にならないでね、どうせたわいもない話で終わるんだから
ある日、僕に翼が生える
そんな化学反応
ひどくおかしいよ、そして何の役にも立たない
ひどくおかしいよ、そして...

失望して這いまわってる
踏み潰された虫みたいに
失望して這いまわってる

失望して...
失望して...
失望して...

君は知っている。君は君がどこにいるかわかっている。
君は君がどこにいるかわかっている。
床が崩れ落ちて、落下して
跳ね返って、そしてある日、僕に翼が生える
そんな化学反応(君は君の居場所を知っている)
ひどくおかしいよ、そして何の役にも立たない(君は君の居場所を知っている)
ひどくおかしいよ(君は君の居場所を知っている)

失望して這いまわってる
踏み潰された虫みたいに
失望して這いまわってる

 

【解説】

『OK Computer』というアルバムの、世紀末の世の中を象徴するような楽曲となっています。歌詞の中のモノクロな情景と、豊かな色彩を感じさせる美しいアルペジオの対比が印象的です。

 

閉塞感のかたまりのような時代

曲の冒頭は、すべてのものが目まぐるしく移動している風景から始まります。そこに人々の笑顔はなく、みなうつむきながら生活しています。感情も立ち上がる気力もなくしています(※)

※ここには1997年当時のRadioheadの境遇が影響していると言われています。彼らはライブツアーのため世界を飛行機や電車、バスなどで途方もない期間、移動を繰り返していました。その窓から見える人々は、彼らにはそのように見えたのです。

20世紀末は彼らにとって、そんな閉塞感のかたまりのような時代でした。

「なんで世の中はこんなになってしまったんだ?」

そんな素朴な疑問を、ありのままの世界を切り取ることで表現したのです。

 

「君は君の居場所を知っている」

この悲壮感あふれる描写は、曲の中盤に差し掛かる頃に変化を迎えます。

3本のギターによるアルペジオが収束し、穏やかな音色に包まれる頃、次の印象的なコーラスが現れるのです。

君は君の居場所を知っている

スピーカーの片側からささやくように、私たちに語りかけるように、トムが叫び始めます。

 ここから曲の終わりにかけて、3本アルペジオと、3方向からのコーラスが奇跡的なバランスでメロディを織り成していきます。

コーラスはそれぞれ以下の役割を果たしています。

 

  • 右側……トムの魂の叫び
  • 左側……失望にひしがれた心の声
  • センター……世の流れ/客観的な理性

 

はじめに「魂の叫び」が盛り上がりを見せ、私たちに希望を与えてくれますが、やはり心は立ち上がる気力を失っており、最後に大きな流れに飲み込まれふと消えてしまいます。

このプロットは前アルバムの『fake plastic tree』に見られた表現ですので、あわせて聴くとより深読みできるかと思います。

 

この歌には希望はありませんが、それ以上にシニカルな思想がみてとれます。それは、こんな世界ではあえて希望を持つ必要なんてないという「達観」の視点です。(仏教的に言えば「諦め」による逆説的な自己肯定です)

1997年当時の彼らにとっては、この世界をどうこうしてやろうとはまだ考えてもいなかったのでしょう。ただ、こんなくだらない社会のせいで自分たちが苦しむのも認められるものではない。それが

僕は僕の居場所を知っている

というささやかな抵抗として表現されたのです。『Creep』で見せた「ぼくはここにいない」という弱い心とは正反対の力強さがあります。このアルバムが出る頃からあの歌を封印し始めたのは、こういった心情の変化があったからかもしれませんね。

 

そして21世紀。

技術の発達により、物の移動はさらに加速度的に早まりました。取り残される人々も増えていくでしょう。これらが疎外感となって再燃するのか。それとも技術自身が人々を救うのか。 

この曲を聴くとき、そんな問いがふと浮かぶのです。

 

【歌詞解説】Ful Stop / Radiohead - 人類に終止符を打ってしまうもの

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『A Moon Shaped Pool』唯一のギターロック。メインギタリストのジョニーが作曲したと言われる。
『Identikit』とともに前作『The King of Limbs』ツアーから演奏されていた曲。
(初披露は2012年シカゴ公演)

【歌詞】

You really messed up everything
You really messed up everything
If you could take it all back again
Strike up the tinderbox
Why should I be good if you're not?
This is a foul tasting medicine
A foul tasting medicine
To be trapped in your full stop

Truth will mess you up, truth will mess you up
Truth will mess you up, truth will mess you up
Truth will mess you up, truth will mess you up
Truth will mess you up, truth will mess you up
Truth will mess you up (All the good times)
Truth will mess you up
(*repeat)

When you take me back
Take me back again
When you take me back
Take me back again

You really ...
You really ...
 

【日本語訳】

お前は全てをめちゃくちゃにした
お前は全てをめちゃくちゃにした
もしお前が全部なかったことにできたとしても
俺が火種をぶちまけるよ
お前がいないなら、俺は良い子でいる必要なんてないんだ
これはひどい味の薬だ
ひどい味の薬だ
お前が打った終止符に捕らわれてしまう

真実はお前を破滅させる
真実はお前を破滅させる
※繰り返し

真実はお前を破滅させる
真実はお前を破滅させる
(ああ 良い頃合いだ)

お前が俺を連れ戻したら...
お前が俺を連れ戻したら...

 

【解説】 

『Moon Shaped A Pool』唯一のディストーションギターによるロックソングとなっています。その攻撃的な音楽性は『Sit down, Stand up』や『Feeling Pulled Apart by Horses(※)』を彷彿とさせます。

※『Reckoner』の原型として制作された曲。Radioheadとしては未発表曲。
(のちにトムのソロプロジェクトAtoms For Peaceで音源化)

 

この曲は解釈に悩みます。歌や音楽からは『Hail To The Thief』時代に見られた「政治への怒り」を感じるのですが、それが具体的に何を示しているのか非常に捉えがたいのです。破壊的でもあり、ジャーナリズム的でもあります。

考えられるストーリーとしては、以下のようなものでしょうか。

 

【解釈1:権力を振りかざし、全てを隠蔽する政治家/権力者への挑発】

「You」を「権力者」として解釈した場合。

多くの犠牲の上でのうのうと生きる彼らを批判した歌となります。「Full Stop(終止符)」とは本来あるべきはずの犠牲者たちの未来を奪ったという意味でしょう。そして真実が明るみに出た時、次に破滅するのはお前自身だぞという挑発になります。

ただこの場合「When take me back...(お前が俺を連れ戻したら)」の「俺」が誰なのか、そして一体何をするのかが全くわかりません。

 類似曲:『We Suck Young Blood』
  役のために身を買われるハリウッド俳優/女優を描いた曲

 類似曲『Cymbal Rush(Thom Yorke)』
  世界の終わりを引き起こした無自覚な政治家を描いた曲

 

【解釈2:この世界を破滅させつつある人間に対する警鐘】

「You」を「人類」として解釈した場合。

我々人類が世界をめちゃくちゃにしていることへの警鐘として捉えることができます。「ひどい味の薬」は、表面上は役に立つ薬(つまりは毒)のことであり、例えば歪んだ経済活動や、行きすぎた技術進化の比喩として成立します。そしてそれら自身が人類の行く末に終止符を打ってしまうんだと。

そうしてみると「真実」は「ひどい味の薬」の延長線上にあるものであり、例えば地球環境の不可逆的な崩壊や、技術的なシンギュラリティなどを表していると捉えられます。

そして先ほどの「When take me back...」ですが、「me」は圧倒的な力を持っており、この状況を変えることができる存在ということになります。それはきっと「超越的な存在(神)」なのでしょう。「お前が俺を連れ戻したら(お前たちを一掃してやるぞ)」という怒りを言外で表現しているのです。

 類似曲:『Lift
  超越的な視点から、この世界に囚われた主人公を救う曲

 

 

今回は決め手がないため、2つの解釈をもって結びとさせていただきます。

ただ曲からは相当の悲哀と怒りを感じるため、『解釈2』の方がこの曲を聴く上では正しいのではないかと感じています。

みなさまよりアドバイスいただければ幸いです。

(良い解釈が見つかったら再掲します)