深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Present Tense / Radiohead - 踊るんだ。踊り続けるんだ

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2009年にトムのソロ演奏として披露され『A Moon Shaped Pool』に収録された。
旋律は『ノルウェイの森』(2010年公開)のメインテーマに酷似している。
映像はジョニーの盟友、アカデミー賞監督ポール・トーマス・アンダーソンによるもの。

【歌詞】

This dance
This dance
Is like a weapon
Is like a weapon
Of self-defence
Of self-defence
Against the present
Against the present
The present tense

I won't get heavy
Don't get heavy
Keep it light and
Keep it moving
I am doing no harm

As my world
Comes crashing down
I'll be dancing
Freaking out
Deaf, dumb, and blind

In you I'm lost
In you I'm lost

I won't turn around
The penny drops
Won't stop now
Won't slack off
All this love
Will be in vain

To stop from falling
Down a mine
It's no one's business
But mine
Where all this love
Has been in vain

In you I'm lost
In you I'm lost
In you I'm lost
In you I'm lost

 

【日本語訳】

この踊りは
この踊りは
まるで武器みたいだ
まるで武器みたいだ
自分を守るために
自分を守るために
現在に逆らいながら
現在に逆らいながら
この現在形に...

重くとらえないよ
重くとらえないで
気を軽くするんだ
動き続けるんだ
僕は君を傷つけたりしない

僕の世界が音を立てて崩れるとき
僕はきっと踊っている
幻覚症状の中
耳が聞こえない 口がきけない 目が見えない

君の中に僕を見失ってしまった...
君の中に僕を見失ってしまった...

僕はもう振り向かない
やっとわかったんだ
僕はもう立ち止まらない
気を落としたりしない
君への愛は全て無駄なんだって...

暗い穴に落ちていくのを止めなきゃ
これはほかの誰のでもない
僕の問題なんだから

この愛は最初からどこへも行き着かなかったんだ...

君の中に僕を見失ってしまった...
君の中に僕を見失ってしまった...
君の中に僕を見失ってしまった...
君の中に僕を見失ってしまった...

 

※ harm ... 損傷、危害、悪意
※ penny drops ... 腑に落ちる、納得がいく
※ slack off ... 力を緩める、たるませる、衰える
※ be in vain ... 無駄になる、徒労に帰す

【解説】 

『Present Tense(現在形)』というタイトルが示すように、この曲は何かしら現在身の回りに起きている事象について歌ったものとなっています。それを一人の人物の独白というスタイルで描いています。

この曲を読み解くヒントは、村上春樹の映画『ノルウェイの森』の中にあります。

 

トムとジョニーが描く『ノルウェイの森

まずはこちらをお聴きください。

www.youtube.co

『Present Tense』のメインメロディと似ていませんか?このメロディは映画『ノルウェイの森』のメインテーマとなっているもので、作中に何度となく登場します。

それもそのはず。ノルウェイの森』のサウンドトラックを手がけたのは、冒頭の映像にも出ていたRadioheadのメインギタリスト、ジョニー・グリーンウッドなのです。ジョニーとトムはいつものように、どちらともなくセッションを始め、そしてこのメロディを生み出したのでしょう。

その後、ジョニーはストリングスを乗せて映画音楽に、トムは歌声を乗せて楽曲に仕上げました。二人にとってこのメロディは同一の意味を持つべきものであり、それはきっと愛する人を突然失ったある男性の物語なのです。

 

※なおトム・ヨーク村上春樹好きは業界では有名で、2003年に『Hail to the Thief』を発表したとき、制作中に唯一読んでいた本として『ねじまき鳥クロニクル』の名前も挙げています(参照

 

非情な現実に囚われないように。踊り続けるんだよ。

ノルウェイの森』は村上春樹の代表作で、2010年にフランスのトラン・アン・ユン監督によって映画化されました。

(あらすじ)

この物語は、主人公「わたなべ」が、自殺した友人「キヅキ」の恋人だった「直子」と、大学で仲良くなった「みどり」の2人の女性とのかかわりの中で「生と死」について考え成長していくストーリーを描いた作品です。

村上春樹『ノルウェイの森』のあらすじ・要約 / 現代文 by 春樹 |マナペディア|

この小説には「死」のイメージがべっとりとこびりついています。親友の自殺、そして愛する人の突然の死、それらが主人公をひどく悩ませ、彼はもがき苦しみながら空虚と化した日々を過ごしていきます。

ちょうど小説の終わりにこの主人公が目にしている現実。それが『Present Tense』の歌詞なのです。

 

村上春樹に詳しい方なら、「踊り」と聞いたら真っ先に『ダンス・ダンス・ダンス』を思い浮かべるでしょう。

「踊るんだよ(中略)音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。」

「ダンス・ダンス・ダンス」の名言集【村上春樹研究所】

この「踊り」は肉体的なダンスではなく、「うまく立ち振る舞う」「くだらないとしても、なんとかして生きるんだ」という意味を表現するために使われます。トムもこの曲の中で「踊り」を同じ意味として使用しているようです。

この踊りは
まるで武器みたいだ
自分を守るために
現在に逆らいながら

(中略)

動き続けるんだ
僕はそうしてる
悪いことなんてないんだ

これは未来に向かって動き出そうとする強い心です。
一方で、愛する人を失った喪失感はずっとまとわりついています。

 暗い穴に落ちていくのを止めなきゃ
これはほかの誰のでもない
僕の問題なんだから

この愛は最初からどこへも行き着かなかったんだ...

君の中に僕を見失ってしまった...
君の中に僕を見失ってしまった...

失った愛を断ち切って前に進まなければいけない。そう頭ではわかっているのに、心にぽっかり空いた穴はそう簡単には埋まらない、そんなもがき苦しむ青年の姿がありありと目に浮かびます。

彼にとってはもはや、愛する人と出会う前に戻ったというだけではないのです。彼女に触れて圧倒的に変わってしまった世界に、突然一人取り残されてしまったのです。(君の中に僕を見失ってしまった)

小説の最後でも、主人公は未来に進もうと決心します。

僕はもう振り向かない
やっとわかったんだ 

これにはもう一人の女性が関わってくるのですが...
気になる方はぜひ小説をお読みください。 

ぼくは「現在」に生きている。そしてこれからも。

今回はひとつのメロディからトムとジョニーが表現したかったものを探ってみました。『ノルウェイの森』に言及していなくても、それに近い感情と情景をテーマにしていることは間違いないと思われます。

 

亡くなった人は「過去」になっていきます。残された人は「現在」を生きます。生きている限り「現在」から離れることはできないのです。彼女がいない「現在」という世界からは。

 

この世界で生きることはどれほど難しいことでしょうか。

 

きっとそれを完全に克服することはできないのでしょう。

 

それでも踊り続けるしかないのです。