深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Fake Plastic Trees / Radiohead - ニセモノの世界でも失われないもの。それは人間の強さ。

『The Bends』のシンプル構成のシングル曲。
オールタイムベストに選ばれる、レディオヘッドの初期の名曲。
執拗なまでに繰り返される「ニセモノ」への対抗意識を込めた普遍的なラブソング

【歌詞】

Her green plastic watering can
For a fake Chinese rubber plant
In a fake plastic earth
That she bought from a rubber man
In a town full of rubber plans
To get rid of itself

It wears her out
It wears her out
It wears her out
It wears her out

She lives with a broken man
A cracked polystyrene man
Who just crumbles and burns
He used to do surgery
For girls in the 80s
But gravity always wins

And it wears him out
It wears him out
It wears him out
It wears him out

She looks like the real thing
She tastes like the real thing
My fake plastic love
But I can't help the feeling
I could blow through the ceiling
If I just turn and run

And it wears me out
It wears me out
It wears me out
It wears me out

And if I could be who you wanted
If I could be who you wanted
All the time
All the time

 

【日本語訳】

彼女は緑色のプラスチックのじょうろで
ゴムでできた偽物の木に水をあげる
この偽物のプラスチックの土地で

そのじょうろはゴムみたいな男から
ゴムみたいな計画であふれた街で買った
街が自身を否定するような街で

それが彼女をすり減らす…
彼女をすり減らす…

彼女は希望を失った男と住んでいる
ひび割れたポリスチレンの
粉々になって燃えゆく男と

彼は医者をしていた
80年代の女の子のために
でも決して抗えないものがあるんだ

それが彼をすり減らす…
彼をすり減らす…

ああ、彼女は本物なんだ
彼女は本物の味がするんだ
ぼくの偽物のプラスチックみたいな愛
でもぼくはその愛をどうしても感じてしまう
ぼくが風に吹かれて天井を越えられたなら…
もしぼくが振り向いて、走り出せたなら…

そんな想いが
ぼくをすり減らす…
ぼくをすり減らす…

もしぼくが
君の望む姿であれたなら…
君の望む姿であれたなら…
ずっと…
ずっと…

 

【解説】

本作はとある街を舞台にした物語になっています。

ニセモノであふれた街で生きる「彼女」と「彼」。そしてそんな不条理を感じつつも愛という感情を捨てきれない「ぼく」。

彼らを通して、トムは一体何を表そうとしているのでしょうか?

本作の舞台『カナリー・ワーフ』とは?

この舞台のモチーフとなったのが、『カナリー・ワーフ』という大規模な金融都市だとされています。この都市はロンドンの東部に位置する川沿いの街で、19世紀初頭から第二次世界大戦でドイツ軍に空襲される1940年代まで、商業埠頭として栄えていました。戦後復興を果たすものの、輸送手段の近代化の波についていけず、1980年代に港としての役目を終えることとなりました。

その後、この街は再開発地区となります。当初は小規模な商業施設を誘致する計画だったのですが、1980年代後半に入ると状況は変化し始めます。再開発地区ではモダンで巨大フロアのビル建設が可能だったため、ここに目をつけた多国籍金融企業が大規模オフィスを次々に建て始めたのです。(当時のロンドン中心部では、そうした近代的な建造物の建設は承認されなかったため、多くの従業員を抱える企業たちはこぞって集まってきたのです)

そしていま、この街はイギリスの三大高層ビルが集う、イギリスきっての超高層ビル金融街として知られることとなりました。

(最も高い「ワン・カナダ・スクウェア」は、なんと235メートルという巨大さです)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/df/Canary_Wharf_Skyline_2%2C_London_UK_-_Oct_2012.jpg/1920px-Canary_Wharf_Skyline_2%2C_London_UK_-_Oct_2012.jpg

出典:カナリー・ワーフ - Wikipedia

 

失われたもの、目的を失った街

『Fake Plastic Trees』は、この変わり果ててしまった街で生きる人たちの視点で、人間性を欠いた現代社会を表現しています。

彼女は緑色のプラスチックのじょうろで
ゴムでできた偽物の木に水をあげる
この偽物のプラスチックの土地で

そのじょうろはゴムみたいな男から
ゴムみたいな計画であふれた街で買った
街が自身を否定するような街で

それが彼女をすり減らす…
彼女をすり減らす…

どう表現したらいいのでしょうか...。

みんな目が死んでいる、そんな風景しか浮かんできません。

彼女は希望を失った男と住んでいる
ひび割れたポリスチレンの
粉々になって燃えゆく男と

彼は医者をしていた
80年代の女の子のために
でも決して抗えないものがあるんだ

それが彼をすり減らす…
彼をすり減らす…

きっと「彼」も昔は熱意を燃やしていたのでしょう。

でも抗えないものの存在(例えば自分では治せない不治の病気のようなもの)を前に、希望を失ってしまったのです。

そして「彼」もこのニセモノの世界で、何も目的もなく生きるのです。

 

古き良きものが必ずしも正しいとは言いませんが、この新しい街は人間性をあまりに欠いているのです。金融街が資本操作のために組み上げたシステムは、もはや何の目的で存在するか誰もわからないのです。

ともすると「Fake Plastic Trees(ニセモノのプラスチックの木)」とは、このビル群そのものを指しているのかもしれません。

 

決して失われないもの、人間の強さ

でもこんな世界の中でも「ぼく」はある想いを感じてしまうのです。

彼女は本物なんだ
彼女は本物の味がするんだ
ぼくの偽物のプラスチックみたいな愛
でもぼくはその愛をどうしても感じてしまう

この愛は、とある女性に向けたものと考えても良いですし、人間性への回帰と考えても良いと思います。大事なのは、街がどれだけニセモノでも(ぼくがニセモノに支配されても)、この心だけは疑いようのない本物だということです。

ちょうど哲学者のニーチェが「世俗的なものの支配から脱して、大地に忠実になれ」と説いたように、トムも「生き物としての温かみを失ってはいけない!」と叫んでいるのです。

曲の盛り上がりに合わせ、彼はその愛に忠実にあろうとします。

でもあまりに世界は大きすぎて、結局は押しつぶされてしまいます。

ぼくが風に吹かれて天井を越えられたなら…
もしぼくが振り向いて、走り出せたなら…

そんな想いが
ぼくをすり減らす…
ぼくをすり減らす…

ただ、彼は諦めていません。 

もしぼくが
君の望む姿であれたなら…
君の望む姿であれたなら…
ずっと…
ずっと…

この「人としての感情を認める」という気持ちこそが人間性であり、人間を人間たらしめる強さなのです。次のアルバム『OK Computer』時代と違い、この時期の曲には「憤り」と同じくらい「希望」が込められているところが『The Bends』の魅力かなと思っています。

 

さいごに

PVでも監視された社会で息苦しく生きている人間がうまく描かれています。

我々は所詮、この社会の中で生きるしかないという諦めの感情が伝わってきます。ショッピングカートに乗るメンバーたちの姿は、自分たちが消費社会の1商品でしかないことを揶揄しているようです。

ただPVの終盤では、個人個人は確かに人間性を持っており、それが集まればきっと良い時代が来るのだという希望が展開されます。 

この曲の素晴らしさは、ただ自分しか見えていなかった『Creep』から、視点をひとつもふたつも上げ、「社会性」という普遍的なテーマを取り込んだ点にあると私は考えています。

 

本当のRadioheadはこの曲から始まったのです。

 

その意味でも、この曲はRadioheadの歴史を語る上で重要な1曲なのです。

 

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