深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Dawn Chorus / Thom Yorke - 革新的なラブソング

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トム・ヨークの3枚目のソロアルバム『ANIMA』の中核を担うラブソング。Netflixで配信された映像作品にも使用されている。ラブソングにもはやメロディは必要なくなった。 

【歌詞】

Back up the cul-de-sac
Come on, do your worst
You quit your job again
And your train of thought
If you could do it all again
A little fairy dust
A thousand tiny birds singing
If you must, you must
Please let me know
When you’ve had enough
Of the white light
Of the dawn chorus
If you could do it all again
You don't know how much
Pronto pronto, moshi moshi
Come on, chop chop

If you could do it all again
Yeah, without a second thought
I don't like leaving
The door shut
I think I missed something
But I'm not sure what
In the middle of the vortex
The wind picked up
Shook up the soot
From the chimney pot
Into spiral patterns
Of you, my love

You take a little piece
Then you break it off
It's a bloody racket
It’s the dawn chorus
If you could do it all again
Big deal, so what?
Please let me know
When you've had enough
It's the last chance
O.K. Corral
If you could do it all again
This time with style

 

【日本語訳】

行き止まりで引き返して
さあ、思うままにしてみてね
仕事も辞めていいよ
思い悩むのも止めてみて...
もし全てやり直せるなら
ほんの少しの妖精の粉
千羽の小鳥が歌っている
もしそうならやるしかないよね...
どうか教えてね
あなたが飽きたときはね
白い光や
夜明けの歌に...(※)
もし全てやり直せるとしても
あなたは知らないわ
どれくらいの代償が必要か...
もしもし もしもし(※)
さあ いますぐ 今すぐよ


もし全てやり直せるなら
そんなの考えるまでもないよ
君と離れたくないんだ
ドアは閉ざされてて
なにか物足りない気持ちがする
でもそれがよくわからないんだ...
渦の真ん中で
風がぼくを巻き上げて
すすを巻き上げて
煙突の先から
渦の模様で
君の...ぼくの愛

 

ほんの少しの平穏
あなたがそれを手放すまで
それは血にまみれた騒音で
それは夜明けの歌なの...
もしあなたが全てをやり直せるなら
それはたいしたものでしょ?
どうか教えてね
あなたが飽きたときは
これが最後のチャンスよ
O.K.コーラル(※)
もしあなたが全てをやり直せるなら
いまはそんな表現なのよ

 

 

アルバム名と映像作品についてはこちらで解説しています

 

【歌詞解説】 

輝かしいラブソング。 失望から抜け出そうとする希望に満ちた愛の歌です。

Dawn Chorus とは「夜明けの鳥のさえずり」のことです。

Netflix版の動画でも、最後に「チュンチュン...」という鳥の鳴き声が流れていましたよね。あれがDawn Chorus(ドーン・コーラス)です。英語圏でも日本でも、共通した「夜明けの象徴」というイメージでOKです。

 

二人の語り手

歌詞は3つの段落に分かれています。それぞれ以下から始まる部分です。

1. Back up the cul-de-sac...

2. If you could do it all again...

3. You take a little peace...

 

1と3が「You」への語りかけ、2は「I」の独白という構成になっているところから、1と3は第二者からの主人公への語りかけ2は主人公自身の心情と読み解きましょう。

『Ok Computer』の『Lift』も第二者からの語りかけで構成されていましたね。『Dawn Chorus』では、それが進歩しており、対話形式になっています。

 

これ以上はきっと、解説は必要ないですね...。

此処から先は...ぜひあなたの心でお聴きください。

 

印象的な用語のみ深読み解説

If you could do it all again

「もし全てをやり直せるなら」という表現が何度も出てきます。これは「やり直せる」と捉えるのも良いですが、どちらかというと「生まれ変わる」というニュアンスの方が強い気がします。

冒頭の「行き止まりで引き返して(解消して)」や、終盤の「あなたがそれを手放すまで」という表現から、「過去(わたし)のことは忘れて、次に進んでいいのよ」という堅い決意が見え隠れするからです。

 

Pronto pronto, moshi moshi,

Pronto はイタリア語で電話の最初に言う言葉です。つまりは「もしもし」です。

続けて日本語の「もしもし」も出てくるので、日本人は思わずクスッとしてしまいますね。トムはかなりの親日家で、日本語が上手いのです。(英語圏の人たちはきっと「エキゾチックな感じがする〜」みたいに感じるはずです)

ちなみにイタリア語が出てくるのは、いまのトムの交際相手がイタリア人(デジェイナ・ロンチオーネ/Netflix版の映像作品でもヒロインを演じていた)であることも関係するのでしょう。

きっと以下みたいな感じで書いてたんじゃないですかね!

トム「ねえデジェイナ。イタリア語で話を始める前って何ていうのかな?」

デジェイナ「Prontね。電話の話だけどね」

トム「それ素敵だね。ちなみに日本語なら"moshi moshi"っていうんだよ」

もっと深読みすると、前述の『Lift』も日本人の手紙が歌詞のベースになったという逸話があるので、何かしらの関連性を感じてしまいますね。(もしかしてトムは本当に日本に忘れられない彼女がいるのでしょうか)

 

O.K. Corral

Corral(コーラル)とは、馬車をつなぎとめるための柵のことです。そして「O.K. Corral」は、日本では「OK牧場」として知られています。(→OK牧場の決闘 - Wikipedia

※「牧場」は誤訳なので、正しくは「O.K. 停車場」と言うべきですが、語呂が悪いので一旦日本語訳はなしとしました。もちろんガッツ某は関係ありません。

「OKコーラル」は歴史的に有名なカウボーイの銃撃戦が行われた場所のことで、歌の中では、いまから戦いが始まる前触れとして登場していると思われます。

生まれ変わるために代償を払わなければいけない。そのためには戦いに臨む必要がある。その心境を象徴した言葉選びなのではないでしょうか。

 

 

 

(了)

 

 

<あわせて読むとさらに深読み>

アルバム名と映像作品についてはこちらで解説しています

 

【歌詞解説】Traffic / Thom Yorke - 君はこれを自由と呼ぶのかい?

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トム・ヨークの3枚目のソロアルバム『ANIMA』の冒頭を飾るトラック。Netflixで配信された映像作品にも使用されている。 

【歌詞】

Submit
Submerged
No body
No body
It's not good
It's not right
A mirror
A sponge
But you're free

Show me the money
Party with a rich zombie
Suck it in through a straw
Party with a rich zombie
Complains, she stays
In Kensington and Chelsea
And you have to make amends
To make amends to me

I can't breathe
I can't breathe
There's no water
There's no water
A drip feed
Foie gras
A brick wall
A brick wall
But you're free

Show me the money
Party with a rich zombie
Suck it in through a straw
Party with a rich zombie
Yeah, complains, she stays
In Kensington and Chelsea
And you have to make amends
To make amends to me

 

【日本語訳】

服従しろ
最低限の生活をしろ
誰も 誰も
そんなこと望んじゃいない
そんなの正しくない
それは鏡だ
それはスポンジだ
でも君は自由だ

金を見せてくれ
リッチなゾンビがいるパーティ
そいつをストローで吸い上げてやる
リッチなゾンビがいるパーティ
不平をもらしなしながら
彼女はケンジントン・アンド・チェルシーにとどまる
君は罪を償わなければいけない
ぼくに償わなければいけない

息ができない
息ができない
水がない
水がない
点滴
フォアグラ
レンガの壁
レンガの壁
でも君は自由だ

金を見せてくれ
リッチなゾンビがいるパーティ
そいつをストローで吸い上げてやる
リッチなゾンビがいるパーティ
不平をもらしなしながら
彼女はケンジントン・アンド・チェルシーにとどまる
君は罪を償わなければいけない
ぼくに償わなければいけない

下線は自信のない部分です

アルバム名と映像作品についてはこちらで解説しています

 

【歌詞解説】

人々を追いやる何者かに対する批判のようです。

テーマは「搾取」だと思われます。歌詞を見ていきましょう。

服従しろ
最低限の生活をしろ
誰も
そんなこと望んじゃいない
そんなの正しくない
それは鏡だ
それはスポンジだ

ディストピアな風景から物語は始まります。

「鏡」「スポンジ」は中身がないものの象徴です。人々は中身がない生活を強いられている。それなのに・・

でも君は自由だ

とトムが言います。なんという皮肉なのでしょうか!

続いて...

金を見せてくれ
リッチなゾンビがいるパーティ
そいつをストローで吸い上げてやる

「リッチなゾンビ」は、徳を失った金持ち(成金)を揶揄した言葉でしょうか。『Ok Computer』の『Karma Police』みたいな表現ですよね。(最近あまり見ない表現なので...聞き間違いかもしれませんが)

彼女はケンジントン・アンド・チェルシーにとどまる
君は罪を償わなければいけない

ケンジントン・アンド・チェルシーというのはロンドン自治区らしいです。これもやはり「搾取」の象徴として用いられているようです。

イングランドで最も貧しい10%にあたる地域と最も豊かな10%にあたる地域が混在しており、貧富の差が非常に大きい地区でもある

引用)ケンジントン・アンド・チェルシー区 - Wikipedia

極め付けは2番の歌詞ですね。基本的には1番と同じことを言っているのですが・・

息ができない
水がない
点滴
フォアグラ
レンガの壁

人々をガチョウに見立てて、より直接的に表現しています。

暗闇のレンガに囲まれ、喉に直接チューブを通されて動くこともままならない生き物。

いや・・これを生き物と言って良いものか。
(一応参考リンクを置いておきます)

【閲覧注意】フォアグラの生産方法を知っていますか? 残酷すぎて言葉が出ない・・・ - NAVER まとめ

 

それなのにトムは言います。

でも君は自由だ

これはもはや確信犯です!

見る人から見れば、私たちの生活はきっとこのように見えるのです。でもそれに気付いていない人々は「私たちは自由な社会に生きている」と自信を持って言うのです。しかしそれはきっと作られた自由です。「自由市場」と言う名の搾取社会なのです。

 

ディストピアなのに、違和感がない・・?

トムは「君はこれを自由と呼ぶのかい?」と皮肉めいて歌います。でもあなたは、もしかしたらすんなり受け入れられてしまったのではないでしょうか。それ自体が恐ろしいですよね。。

 

事前にトムが「政治的なアルバムなんて作る気はなかったんだけど」みたいなことを言っていましたが・・・いつもと同じですね。安心しました。

むしろ彼が政治や社会から離れてアルバムを作ったことなんてあるんでしょうか。(ただしパブロ・ハニーは除く)

 

(了)

 

 

<あわせて読むとさらに深読み>

アルバム名と映像作品についてはこちらで解説しています

 

【歌詞解説】ANIMA - Not The News / Thom Yorke - 映像に隠された意図

トム・ヨークの3枚目のソロアルバム『ANIMA』に収録されたテクノロック。Netflixで配信された映像作品のリードトラックにもなっている。

 

本記事ではPTAの映像作品『ANIMA』についても考察しています

 

【歌詞】

Who are these people?
In black treacle
You're starting violence
And say nothing

But I'm not running
Enough of broken glass
Enough so I can leave
My dancing feet

Fortune teller
See the feather
Just like violence
And sympathy, yeah

But I'm not running
Enough of broken glass
Enough so I can leave
My dancing feet

 

【日本語訳】

この人達は誰なんだ?
黒い蜜の中に沈んでいる
あんたは暴力を始めようとしている
何も語ることなく

でもぼくは走るわけでもなく
割れたガラス片を超えて
できる限り離れようとする
ぼくの脚は踊っている

占い師は見る
羽が舞うのを
それはまるで暴力で
そして同情でもある

でもぼくは走るわけでもなく
割れたガラス片を超えて
できる限り離れようとする
ぼくの脚は踊っている

 

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『ANIMA』というアルバム名

突然の「Anima Technologies」事件から2週間。ついにアルバムが解禁されましたね。

しかもNetflixで映像作品が公開。そして監督はあのジョニーの盟友、ポール・トーマス・アンダーソンだというから全く話題にこと欠かないですよね!

本作『ANIMA』は以前より、政治的なものに言及したものになると言われてきました。リリース直前のインタビューでもブレグジットや社会構造にかなり踏み入って熱弁していましたね。

「Not The News」がリードトラックとなっていることも、それに関わっているのでしょうか。早速考察していきたいと思います。

 

そもそも『ANIMA』の意味って?

「ANIMA(アニマ)」とはラテン語で生命や魂を指す単語ですが、一般的にはユングの心理学用語として知られています。トムいわく、今回のアルバム名は後者に由来するようです。

トム「最終的に『ANIMA』という名前になった理由の一つとして、僕が夢というものに魅了されていたということがあると思うんだ。(心理学者の)ユング夢分析に影響を受けたものなんだけどね」

(上記インタビューより)

ユングによると、「アニマ」とは男性の夢に現れる「女性」であり、その男性の無意識に存在する女性らしさを投影したものであるとされます。(女性の夢に現れる「男性」は「アニムス」と呼ばれます)

アニマは男性の集合的 無意識の中にある女性像の元型であり(中略)常にある一人の女性に投影されている。その人物は自分にとってもっとも影響力を持った異性であり、最初は母親、そのあとはその人に深く関わる女性とされる。(中略)ユングによると、女性は男性にはないインスピレーションや、個人的なものに 対する細やかさを担っている。

出典)ユングのアニマとアニムス - 高橋容子

 

Netflixの『ANIMA』に登場するアニマ

Netflixの映像作品に登場する女性は、トムにとってのアニマを表現しています。彼は幾度の障害に阻まれながらも、彼女を追い求め、そしてやっとのことで手を取り合うことができる、というストーリーです。

ユングにとってのアニマは「男性が持つ無意識下の女性的側面」でしたが、トムはこれを「男性が追い求める特定の女性像」と解釈したようです。

そしてストーリーの後半からは幸福に包まれた二人が描かれるのですが・・・全ては夢の中なのです。最後に目を覚ましたトムは、現実の世界には女性が既にいないことを思い出すのです。トムは失った女性をアニマとして夢に描いていたのです。

※トムは2016年に元妻レイチェルを亡くしている

 

ドリーム・カメラとは何だったのか?

こうしてみると、アルバム発表前に世界中に展開されたプロモーション「ドリーム・カメラ」が何を暗示したものなのかが見えてきます。

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どうして夢は消えてしまうのか?

これは昔からよくある話です。私たちは毎晩のように夢の中ではるか彼方の非現実的でおかしな世界を旅しています。しかし、朝になるとその世界の細部を思い出すことができません。ストーリーすら覚えていないこともあります。しかし、これはもう過去の話です。ANIMAは『ドリーム・カメラ』を開発しました。こちらのフリーダイヤルにお問い合わせいただければ、夢を何度も何度もお楽しみいただけます。

出典)レディオヘッドのトム・ヨーク、ソロ・アルバムを予告する広告が渋谷にも | NME Japan

 

アニマは男性自身の女性的な部分であると同時に、インスピレーションの源でもあります。日常的に感じるふとした無意識。それは夢の中で最も愛する女性の形を通して自分に語りかけてきます。

愛する人を失った人間にとって、アニマとは自分の一部でもあり、最愛の人の残像でもあります。長年連れ添った相手はもはや記憶に深く結びついているので、それを区別することなんでできないのです。 

夢は、アニマ(もしくはアニムス)と出会う神聖な場所です。それをテクノロジーによって記録してしまうことは、どのような意味を持つでしょうか・・・。ある人はきっと幸せなことだと言うでしょう。でもある人には冒涜に映るのかもしれません。

トムは「ANIMA」の一連の作品やプロモーションを通して「忘れられないもの」と「忘れなければいけないもの」を我々に問いかけていたのです。

 

ただ結局のところ、答えはないのかもしれません。「ドリーム・カメラ」は発売されず、ホームページはこんな注意書きを残して閉鎖されたからです。
 

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「深刻かつ凶悪な非合法活動」を行なったため同サイトは当局によって「奪取」され、すでに営業停止となっています。

これは自由な民主主義が政府によって規制されたと見ることができますが、一方でトムはこうも言っています。

トム「それから、僕らはデバイスに言われたことに従うようになり始めていて、振る舞い方まで真似するようになってしまったという現状もある」

(上記インタビューより)

もしかするとアニマ・テクノロジーズは本当に危険な存在だったのかもしれません。夢をデバイスに保存できれば、「アニマ」という魂そのものを支配してしまうことだって出来るからです。それは人間性の支配にほかなりません。

 

どちらが正しいのかはもはやわかりません。

そもそも正しさなんてないのかもしれません。

 

【歌詞解説】

『Not The News』(これはニュースではない)

ようやく歌詞の解説です。

歌詞は断片的でとりとめがないですが、きっと知らないうちに戦争に巻き込まれたときの私たちの行動を描いていると思われます。

この人達は誰なんだ?
黒い蜜の中に沈んでいる
あんたは暴力を始めようとしている
何も語ることなく

私たちが気付いたときにはすでに始まっているのです。何人もの死体が黒い蜜(爆撃を受けた穴?)の中に確認できます。

もしドラマの主人公なら落ちている銃を拾い、敵に立ち向かうのでしょう。でも現実ならきっとそんな風に思えないはず。 

でもぼくは走るわけでもなく
割れたガラス片を超えて
できる限り離れようとする
ぼくの脚は踊っている

割れたガラスが足元に散らばっているので、ゆっくりとそれを避けるように歩きます。そしてあなたはこの悲惨なところから離れようとします。

これはいままでテレビを通して見ていた風景です。あなたがいつも「向こう側」の出来事として見ていた景色です。それがいま現実として目の前に広がっています。これはニュースではない(Not The News)のです。

そのふらふらとした足取りはまるで、ダンスのステップを踏んでいるみたいに見えます。そんな自分が情けなくて「僕の脚は踊っている」と揶揄するのです。

占い師は見る
羽が舞うのを
それはまるで暴力

トムが占い師みたいなものを明示的に描くのは珍しいです。

きっと「もう起こるのは確定しているんだよ」という暗示でしょう。(「羽」は市街爆撃のあとに舞う書類やホコリの暗喩でしょうか)

 

ありえないと思っていたことが現実に起きたら、きっとヒーローみたいには振る舞えない。この歌はそんなリアリティを私たちに突きつけてくるようです。

 

 

 

 

<あわせて読むとさらに深読み>

 

【歌詞解説】Morning Bell / Radiohead - ソロモン王の判決

トムいわく「本当に攻撃的」という楽曲。『Kid A』の隠れた名曲。ぜひアルバム音源で聞いて欲しい一曲。
Youtubeになかったので...ぜひストリーミングサービスで!)

【日本語訳】

モーニングベル
モーニングベル
こっちじゃないキャンドルを点けてくれよ
自由にさせてくれ
自由にさせてくれ

家具は君にやるよ
何かが頭をぶつけながら
煙突に向かってどなっている
ほっといてくれ
ほっといてくれ
頼むから...
ほっといてくれ
ほっといてくれ

車はどこに停めた?
車はどこに停めた?
服は家具と一緒に草むらに散乱してる
まあそれでもいいか
それでもいいか
眠りのジャックと避難訓練
走り回れ回れ回れ...

子どもを二つに分けろ(※)
子どもを二つに分けろ
子どもを二つに分けろ

何かが歩いている歩いている歩いている歩いて...

 

【歌詞】

Morning bell
Morning bell
Light another candle
Release me
Release me

You can keep the furniture
A bump on the head
Howling down the chimney
Release me
Release me
Please...
Release me
Release me

Where'd you park the car?
Where'd you park the car?
Clothes are on the lawn with the furniture
Now I might as well
I might as well
Sleepy jack the fire drill
Run around around around around around

Cut the kids in half
Cut the kids in half
Cut the kids in half

Da da da da...
( *** get enough *** , everybody wants to be a friend, nobody wants to be a ...)

Walking, walking, walking, walking
Walking, walking, walking, walking
Walking, walking, walking, walking
Walking, walking, walking, walking

 

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【解説】

4作目のアルバム『Kid A』に収録された楽曲です。

規則的なリズムと電子ピアノのコードから始まった曲は、徐々に狂気が膨らんでいき、最後は恍惚を覚えるほどの不穏さで幕を閉じます。

この曲は5作目のアルバム『Amnesiac』にも「Morning Bell/Amnesiac」として別アレンジで収録されました。バンド的にもお気に入りの曲だったのでしょう。

(ちなみに『Amnesiac』版では後半の攻撃性は抑えられ、平穏を求めるように「Release me(自由にさせてくれ)」をリフレインします)

 

「Cut the kids in half」の2つの解釈

この曲の解釈は本国イギリスでも二分されているようです。

1つ目は「家に幽霊が棲み着いている」という解釈、2つ目は「離婚をテーマにした曲」だという解釈です。どちらも面白い解釈なのでご紹介します。

 

1)幽霊解釈

こちらは非常にトムらしいですよね。

家に幽霊が棲み着いて、ひどく混乱している主人公を描いています。

『Ok Computer』でも幻聴や被害妄想に悩まされている主人公が登場していました。ましてや『Kid A』の制作が混乱を極めたことも相まみえて、トムがさらにおかしくなっていたと考えれば、幽霊が見えていてもおかしくありません。

インタビューでもこう答えています。

これはとても、とても攻撃的な歌。本当に攻撃的なんだ。奇妙なことに、この歌はすっと出てきたんだ。それは後にも先にもないことだったんだけどさ...

 

歌詞は、自分の家がだんだんと侵食されていく様を描きます。

朝もおちおち眠れず、絶えず怒鳴り声が聞こえる。自由にしたいと願うのですが、段々と自分の判断も怪しくなってくる。車を停めた場所も定かじゃなく、知らぬ間に衣服が家具と一緒に外に散乱している。自分はだんだんと気が狂っているのを感じる...

ちなみに「Cut the kids in half」は聖書からの引用で、ソロモン王の判決の寓話だと思われます。

(前略:二人の遊女が、子供を取り合っている)

Bは「生きているのが自分の子で、死んだのはAの子」だと反論します。

Aも「死んだのがBの子で、生きているのが自分の子」だと言い張り、言い合いになります。

この時、ソロモンは刀を持ってくるよう命じます。そして、生きている子を二つに分けて半分ずつ二人の遊女に与えるよう命じます。

すると
Aは「生きている子をBに与えて殺さないで欲しい」と願います。
Bは「子を二つに分けて欲しい」と言います。

二人の言葉を聞いて、ソロモンは生きている子をAに与えるよう命じ、Aが子の母親だと結論付けます。

引用:ソロモン王の驚くべき判決 | 聖書早読み

真実を明らかにするために「子供を半分に分けよ」と言うソロモン王の機転。狂気とも思える言葉ですが、そこには知性が感じられます。ただしこれが幽霊の声だとすると・・・。

そして目に見えない何者かが、ずっと自分の周りを歩いている。もはや悪夢です。

 

2)離婚解釈

こちらの解釈はなるほどと思いました。
もっと身近な生活──夫婦の終わりを描いているというのです。

こっちじゃないキャンドルを点けてくれよ
ほっといてくれ

朝眠いのに、奥さんがキャンドルに明かりが灯します。「なぜこっちのキャンドルを点けるんだ。ベッドには両サイドに明かりがあるのに!」というプチ怒りです。

夫婦の仲は相当険悪そうです。

家具は君にやるよ

これって離婚の決まり文句なんですね。
だいたい先に、面倒くさくなった男の人が口にしてしまいそうです。

服は家具と一緒に草むらに散乱してる
まあそれでもいいか

そしてある日、家に帰ったら自分の荷物が庭に捨てられている。

呆れが一周まわって「もうどうでもいいよ」ってなっている主人公。

でも財産はどうでもいいとしても、親権だけは捨てたくないんですよ。

子どもを二つに分けろ

元ネタは先ほどと同じくソロモン王の寓話ですが、今度は主人公が「自分のことしか考えない遊女」の立ち位置になっています。なんだか悲しいですね。

 

おわりに

さて。私としては曲の攻撃性からずっと「幽霊解釈」的なイメージで聴いてたんですよ。でも『Amnesiac』に収録されている穏やかなバージョンがあることで、ずっと混乱してたんですよね。

今回「離婚解釈」というのがあるのを知って、なんだか腑に落ちたような、謎が深まったような、そんな感覚になりました。

※『In Rainbows』の「House of Cards」も不倫の歌だと言われていますし、意外とこういうドロドロした恋愛事情もレディオヘッド的なのかもしれません。

 

みなさんはどちらの解釈が好きですか?

ぜひコメントで教えてください!

 

 

<あわせて読めば、もっと深読み>

 

  

 

【Radiohead入門】最初に聴くべきオススメ7曲と、全アルバム100曲解説(最新作まで)

時代ごとに名曲を生んできたレディオヘッド

音楽好きでも『Creep』しか聴いたことがないという方が多いですよね。

Radioheadは現在、“世界一クリエティブなバンド” とまで言われていますが、日本で知名度がそこまで高くないのは、彼らの楽曲の良さが理解しにくいからに他なりません。

問題は「オススメ曲」にあります。人気曲と思って、ほぼ全員が『Creep』から聴き始めるんですよね。そしてある人は「ギターのガガッってのがカッコいい!」と言い、ある人は「よくあるロックバンドじゃん、つまんね」って言うんです。 

 

ちょっとまって!それレディオヘッドじゃないですから!

 

『Creep』はデビュー曲のスマッシュヒットに過ぎない

『Creep』って、本人たちも全く気に入っていなかったにも関わらず、曲があまりにもキャッチャーなので最初に聴くべき名曲として広まってしまったんです。これって、ビートルズが『プリーズ・プリーズ・ミー』のバンドと言われているようなものですよね。 

ただレディオヘッドが理解されにくいのは、彼ら自身のせいでもあります。フロントマンであるトム・ヨークの内省的な性格のせいもあり、アルバムごとに音楽性がガラッと変わるのです。だからその背景を知らずに無邪気に聴くと、必ず悲しい思いをするのです。 

私の周りでも、Creep良かったから他の曲聴いてみたけど、ボソボソ歌っててよくわかんないみたいな声もよく聞きます。なんてもったいない!

 

全アルバム100曲から、7曲 (+26曲)を厳選しました

そんな方に向けて、1作目から9作目(2019年現在:最新作)まで、全オリジナルアルバムの解説と、収録全曲にひとことレビューをしてみました。おすすめの曲には高い評価をつけています。人気曲はもちろん、隠れた名曲にも出会えるはずです! 

 

ぜひ★4(7曲)と★3(26曲)を聴いてみてください!

<評価基準(0〜4の5段階)>
ーーーーーーーーー
-:普通の良い曲
★:一度は聴く価値がある曲
★★: 間違いなく名曲
★★★: 音楽史上最も優れた曲のひとつ
★★★★: もはや神の奇跡
ーーーーーーーーー 

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【1作目】Pablo Honey(パブロ・ハニー)

レディオヘッド黒歴史。最も有名にして、最大の厄作『Creep』を収録している。はっきり言って、プロデューサーとバンドが噛み合っておらず、何がしたいのか全くわからないアルバム

(のちにバンドは次作「The Bends」を本当のデビューアルバムだと言い張り、この作品をなかったことにしている)

<アルバム合計・・・★6> 

曲名 評価
1.You
変拍子ギターリフが癖になるオープニングチューン
2.Creep
極めてオーソドックスなコード進行のラブソング。サビ前のディストーションギターが印象的。
★★
3.How Do You?
日曜の朝に庭で水浴びをしてるみたいな曲
-
4.Stop Whispering
シンプル・イズ・ベストなポップソング。やっぱり最後は叫ぶ
5.Thinking About You
夜中に書いたラブレター
-
6.Anyone Can Play Guitar
若いバンドが苛立ちに任せて演奏したようなギターポップ(実際そう)
7.Ripcord
アルバムを埋めるためだけの曲
-
8.Vegetable
アルバムを埋めるためだけの曲2
-
9.Prove Yourself
アルバムを埋めるためだけの曲3
-
10.I Can't
アルバムを埋めるためだけの曲4
-
11.Lurgee
アルバムを埋めるためだけの曲5
-
12.Blow Out
アングラ感が漂うギターソング。浮遊感を出そうと奮闘するメンバーの努力が見える。後半のトムは歌うことすら面倒になった模様

 

  

 

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【2作目】The Bends(ザ・ベンズ

音楽的にはまだ一般的なギターバンドの域にある作品。

『Creep』のスマッシュヒットのせいで、彼らは望まない世界ツアーを延々と繰り返させられ、疲弊しきっていた。そんな中、前作でやりたいことが全くできなかった反省を糧に、彼らは見事なギターポップアルバムを完成させた。本当の意味でのデビューアルバム。

<アルバム合計・・・★20> 

曲名 評価
1.Planet Telex
浮遊感に包まれるエフェクトたっぷりのギターソング。Radioheadの本当の始まりを告げるオープニング曲
★★★
2.The Bends
周りの全てに怒りをぶちまけるようなロックソング。複雑な展開は何度聞いても新鮮
★★
3.High and Dry
良質なアコースティック・ポップソング
★★
4.Fake Plastic Trees
至極のアコースティック・ラブソング。後半の盛り上がりは展開・歌詞ともにCreepの「美しさ」を昇華しつつも、遥かに高い視座でまとめられている
★★★★
5.Bones
3本のギターが淡々と役割を演じるポップソング
-
6.(Nice Dream)
優しいメロディが包み込むアコースティックソング。終盤に爆発し、また戻ってくる
-
7.Just
数えきれないほどのコードが詰め込まれたギターロック。アウトロのジョニーの狂ったソロは必聴
★★★
8.My Iron Lung
オープニングのリフが印象的な、一見穏やかなポップソングだが、その実はCreepの「ダーティさ」を昇華したロックソング。
★★★★
9.Bullet Proof..I Wish I Was
優しいメロディが包み込むアコースティックソング。こちらは最後まで壊れない
-
10.Black Star
ナイーブな青年のラブソング。特に語ることはない。
-
11.Sulk
頑張って展開を作りました、というのが透けて見えるギターソング。Ok Computerと比べると見劣りする音作り。
-
12.Street Spirit (Fade Out)
アコースティックギターアルペジオが美しい1曲。こんな悲しみに満ちた曲がシングルカットされるのはレディオヘッドくらいだろう。
★★

 

 

 

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【3作目】Ok Computer(OK コンピューター)

20世紀のギターロックを完成させたとまで言われる名盤。 

前作『The Bends』のヒットを受け、レディオヘッドは内容・期間ともに、自由にアルバムを制作してよいことになった。レーベルのこの判断は、レディオヘッドは才能を一気に開花させることとなる。

また、新たなプロデューサー(ナイジェル・ゴッドリッチ)を迎えたことも大きかった。彼の参加により、表現できる音の幅が飛躍的に広がったのだ。そこにはピアノやストリングスなどの楽器だけでなく、様々なエフェクターやミキシング技術も含まれる。(ナイジェルはその後の全作品でプロデューサーを務め、いまでは6人目のレディオヘッドと言われている)

ギターという楽器の限界を確かめるように、彼らは頭の中をそのまま音として表現すべく、ありとあらゆるアプローチを使った。そうして完成したのが『OK Computer』だった。

 

<アルバム合計・・・★23>

曲名 評価
1.Airbag
まるで神話のように全ての楽器が絡み合う名曲。ギターでこれほどの広がりを作れるのかと驚かされる。
★★★
2.Paranoid Android
Radiohead史上最高と評されるロックソング。二転三転する展開はまさにボヘミアンラプソディそのもの
★★★★
3.Subterranean Homesick Alien
穏やかな田園風景を思わせる作品
-
4.Exit Music (For a Film)
アコースティックギターとオルガンが奏でる悲劇。後半のディストーションベースが印象的。
★★
5.Let Down
クリーンな3本のギターアルペジオが絡み合うポップソング。明るい曲調と救いのない歌詞の対比は、これぞレディオヘッド
★★★
6.Karma Police
イギリスの伝統を受け継いだようなピアノメロディが印象的。ラストの悲痛な叫びは聴く者の胸に突き刺さる。
★★
7.Fitter Happier
Macの合成音声が無機質に語る曲。ジョージ・オーウェル1984の世界。
-
8.Electioneering
怒りをぶちまけるためだけに作られたような曲。良くも悪くもメチャクチャ。
-
9.Climbing Up the Walls
深い穴の奥底から這い上がるように、じわじわと終焉に向かって展開していく。ストリングスとディストーションギターが全てを飲み込む。
★★★
10.No Surprises
シンプルなリフにシンプルなコード。あまりに完成されているため、半世紀前から存在していたかのような錯覚に陥る。一方で救いのない歌詞が曲に深みを持たせることに成功している。
★★★
11.Lucky
Ok Computerでは珍しい「まとも」なギターソング。まるで現実から目を背けたがっているように、泣き叫ぶジョニーのギターリフが印象的。
12.The Tourist
Ok Computerを締めくくるにふさわしい、現代社会への警鐘。サビの「Hey man, slow down...」と繰り返される叫びは涙なしに聴くことはできない。
★★

 

  

 

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【4作目】Kid A(キッド・エー)

ロックの歴史を変えた名作

前作同様、自由な制作期間を与えられたものの、『Ok Compuer』においてギターロックで出来ることをやりきってしまった彼らは、もはや進むべき道を失っていた

行くあてのない制作期間の中で、彼らは既成概念からの脱却を図った。ギターを使う必要はない。4拍子に従う必要はない。そうしてメンバーは、ギタリストやベーシストであることをやめ、楽器の垣根を超えた音づくりに取り組み始めた。

もともと全員が卓越したプレイヤーであった彼らは、ピアノ、オンド・マルトノ(電子楽器)、サックス、バイオリン、エレクトーン、そしてコンピューター・・など、ありとあらゆる楽器をバンドに持ち込み、見事にロック音楽として融合させた

『Kid A』はよく「エレクトロニカに傾倒したアルバム」と評されるが、それは正しくない。前作までのギターロックとの差が大きすぎてその点が際立ってしまいがちだが、前述の通り「いろんな楽器と電子加工を取り入れた」くらいの方が表現としては適切だ。バンドにとってはごく自然な「進歩」だったのだから。

 

<アルバム合計・・・★24>

曲名 評価
1.Everything in Its Right Place
電子ピアノのリフに乗るのは、コンピューター加工されたトムの声。この曲の誕生により、ギター・ベース・ドラムがなくてもロックソングが作れることが証明された。
★★★
2.Kid A
心地よい電子音が聴く者を抱き寄せ、包み込んでくれる。実験音楽でありながら王道。
★★★
3.The National Anthem
不穏なベースラインが周囲の全てを巻き込みながら進行していく。中盤から加わるブラスバンドがまるで交通渋滞のように折り重なり、不協和音がピークを迎えたところで曲が終わる。
★★★★
4.How to Disappear Completely
アコースティックギターと電子楽器(オンド・マルトノ)による抒情詩。不安定な感情が不協和音として表現される終盤は見事としか言いようがない。これほど透明感のある楽曲を、私は知らない。
★★★★
5.Treefingers
電子音とエフェクターで構成されたインスト曲。もはやどのように音が作られたかは謎。
-
6.Optimistic
規則的なタムが印象的なギターロック。この曲に触発されて反グローバル企業活動に参加したイギリス青年たちが後を絶たなかった。
★★
7.In Limbo
変拍子ギターソング。不安を誘うアルペジオが印象的。
-
8.Idioteque
攻撃的なドラムマシーンにシンセサイザーのリフが繰り返される。ダダイズムからの影響による支離滅裂な歌詞が特徴的。意外なことにKid Aでテクノソングと言えるのはこの曲だけだ。
★★★
9.Morning Bell
穏やかな電子ピアノから始まるが、次第に外観が崩壊していく作品。一瞬だけ顔を覗かせた美しさは、まるで巧みな進化を遂げた食肉植物のようだ。絶望が口を開いて待ち構え、聴く者を闇の奥底へと引きずり込む、あとには無だけが残される。
★★★
10.Motion Picture Soundtrack
オルガンの旋律がただひたすらに美しい作品。「I will see you in the next life(来世で会おう)」という歌詞はニヒリズムの究極系。
★★

 

 

 

 

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【5作目】Amnesiac(アムニージアック)

前作の制作期間に作られた楽曲のうち、『Kid A』に収録されなかったものを集めた作品。ただし残り物と侮るなかれ。『Kid A』は表題曲「Kid A」に合う曲だけを集めたコンセプトアルバムだったため、どれだけ優れていても、コンセプトが異なる曲は収録されなかったのだ(どの曲を収録するかでバンドは解散の危機を迎えたほど)。

そのため『Kid A』に比べ、コンセプトアルバム感は薄くなっており、脱ロックのための様々なアプローチを堪能できるアルバムとなっている。

 

<アルバム合計・・・★17>

曲名 評価
1.Packt Like Sardines in a Crushd Tin Box
電子音とつぶやくような歌声。感情を押し殺すように、全ての音がエフェクターにより熱量を削ぎ取られている。だがそれが不思議と心地良い。
2.Pyramid Song
不安定なコード進行によるピアノとストリングス、そしてトムの歌声が奇跡的に絡み合う名曲。もはや神話の世界。
★★★
3.Pulk/Pull Revolving Doors
サンプリング音源をつなぎ合わせた楽曲。もはや曲なのかすら怪しい。
-
4.You and Whose Army
静かなアコースティックギターによる曲。終盤、ピアノが加わると曲調が一変する。まるで突然戦争が始まったかのように。隠れた名作。
★★★
5.I Might Be Wrong
これをギターロックと言っていいのだろうか。どの楽器も、リズムを刻むことだけを目的として呼応し合う。絶妙なアンバランス。
★★
6.Knives Out
標準的なロックの構成。楽器も展開もこれといった特徴はない。なのに、何故こんなにも悲しいのだろう?
7.Morning Bell
Kid Aに収録された同名曲の別アレンジ。攻撃的な印象は薄れ、幸福に包まれているようにすら思える。だが靄の中で正常な判断力を失った白痴のように皮肉めいている。
-
8.Dollars and Cents
スピード感を持ったベースラインとドラムが曲を牽引する。中盤以降の展開と「Why don't you quiet down?(静かにしてくれないか)」のリフレインが印象的。資本主義への開けっぴろげな批判。隠れた名曲。
★★★
9.Hunting Bears
ギターと単一電子音の物悲しいインスト曲。
-
10.Like Spinning Plates
全編逆再生で構成された楽曲。もはやどのように作られたかは想像すらつかない。
★★
11.Life in a Glasshouse
ピアノとトランペットというジャズの楽器構成。トムの「Only, only, only...(ぼくはただ...)」という叫びとトランペットが絡み合う終盤は、悲痛さの一言。
★★

 

 

 

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【6作目】Hail to the Thief(ヘイル・トゥ・ザ・シーフ)

音楽的プレッシャーから解放された彼らは、前2作の世界ツアーで、電子音楽をライブアレンジし、ギターやエフェクターなど、フィジカルな楽器で演奏できるようになっていた。

そんなロックバンドとして進化を遂げた彼らが、当時の衝動をそのままアルバムに閉じ込めた、いわば前2作とは真逆のプロセスで作り上げた作品である。(1曲に凝りすぎて時間をかけすぎないこと、無闇に長い曲を入れないこと、などの取り決めをしていた)

また、本アルバムの制作年である2002年は、世界情勢が緊迫した時期でもあった。多くのアーティストが反戦を掲げていたように、レディオヘッドも戦争や権力者への嫌悪感をひときわ露わにしていた。そのため『OK Computer』以来意識的に取り込んでいた社会風刺色が、最も色濃く出ている作品ともなっている。

 

<アルバム合計・・・★21>

曲名 評価
1.2 + 2 = 5 (The Lukewarm.)
静かなイントロは、中盤以降、攻撃的なギターとボーカルに塗りつぶされる。Paranoid Androidに並ぶ展開力を持つ風刺ソング。
★★★★
2.Sit down. Stand up. (Snakes & Ladders.)
これまた静かなイントロから一変、中盤から攻撃的なリズムに埋め尽くされる。暗い空を覆い尽くす弾幕から逃げ惑うように。
★★★
3.Sail to the Moon. (Brush the Cobwebs Out of the Sky.)
ピアノバラード。夢の中に誘うような優しさ。
-
4.Backdrifts. (Honeymoon is Over.)
前2作のコンピューティングシステムを平然と使いこなした作品。電子音とドラムマシーンを巧みにポップソングに融合している。
-
5.Go to Sleep. (Little Man Being Erased.)
彼らが卓越したギタープレイヤーだと再認識させてくれる作品。ただ、なぜこの曲がシングルカットされたかは謎。
6.Where I End and You Begin. (The Sky Is Falling In.)
楽器構成としてはKid A / Amnesiacと同一なのだが、明らかにロックだと認識できる音作りは何なのだろう。隠れた名作。
★★
7.We Suck Young Blood. (Your Time Is Up.)
ピアノと最低限なギターのみで構成された楽曲。コーラスと手拍子が印象的。終盤のピアノによる盛り上がりは必聴。
8.The Gloaming. (Softly Open our Mouths in the Cold.)
ジョニーが打ち込んだ電子音のリズムにトムがボーカルをつけた作品。
-
9.There There. (The Boney King of Nowhere.)
ダブルタムのリズムが印象的なギターソング。コードの展開や演奏に際立った部分は少ないにも関わらず、なぜか聴く者の魂を揺さぶる力を持つ名曲。
★★★
10.I Will. (No Man's Land.)
ギターの弾き語り。静かな怒りに満ちた曲。
-
11.A Punchup at a Wedding. (No no no no no no no no.)
ベースラインが印象的なピアノロック。それぞれの楽器が伸びやかに演奏されており、開放感が心地よい。
12.Myxomatosis. (Judge, Jury & Executioner.)
歪んだシンセサイザーのリフが癖になる名曲。トムのボーカルはもはや歌の枠を超え、詩の朗読にすら思える。
★★★
13.Scatterbrain. (As Dead as Leaves.)
シンプルなギターバラード。アルバムに入ったのが不思議なほど平凡な作品。
-
14.A Wolf at the Door. (It Girl. Rag Doll.)
美しい旋律と、それを台無しにするようなトムのボーカルが感動的。Myxomatosis同様、怒りをそのままセリフにして乗せたような楽曲。
★★★

 

 

 

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【7作目】In Rainbows(イン・レインボウズ)

長年いがみ合っていたレーベルとの契約が満了し、本当の意味での自由となったレディオヘッド。彼らは原点に立ち返り、自分たちが満足する作品を作ろうと思い立った。そして完成したのが『In Rainbows』というアルバムだ。

この作品はキャリアの集大成と呼ぶにふさわしく、ストリングスを中心とした多彩な楽器や、新しいロックのありとあらゆるアプローチが用いられている。全ての楽曲が高いレベルで構成されていることから、21世紀の『OK Compuer』とも評される。Radioheadの全アルバムの中でナンバーワンにあげるファンも多い。

 

<アルバム合計・・・★20>

曲名 評価
1.15 Step
5拍子のダンスチューン。ボーカルとリズム隊、電子楽器が見事に融合し、我々に新しい世界を見せてくれる。
★★★
2.Bodysnatchers
疾走感のあるギターロック。トリプルギターがシンプルに入ってくるのはもはや伝統芸。
3.Nude
最低限の音数で表現されるバラード。全ての音が見事なまでに透き通っている。ファルセットとストリングスが織りなすエンディングが印象的。
★★★
4.Weird Fishes/Arpeggi
トリプルギターがアルペジオを奏で、次第に収束していく。海の底を漂うような心地よさ。
★★
5.All I Need
重々しいベースラインに美しい旋律が絡み合う。エンディングに向かうピアノとシンバルは圧巻。
★★★
6.Faust Arp
ミニマル構成のバラード。神秘的なアコースティックギターのメロディが印象的。
-
7.Reckoner
ひたすらにファルセットが美しい楽曲。コードを展開させずにここまで広がりを持たせられる編曲センスには脱帽させられる。
★★
8.House of Cards
標準的なバンド構成で描かれるバラード。5分超えの曲に関わらず長さを感じないのはなぜだろうか。
9.Jigsaw Falling into Place
アコースティックな楽器構成で紡がれるロックソング。後半にエレキギターが加わり、疾走感はピークを迎える。
★★★
10.Videotape
ピアノの弾き語り曲。悲しげな音色と対照的に、強い意思が感じられる作品。
★★

  

 

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【8作目】The King of Limbs(ザ・キング・オブ・リムズ)

In Rainbows』で満足したバンドメンバーは、しばらく各々のソロ活動へといそしむことになる。そして前作のリリースから2年後、再びスタジオに集結した彼らは、それらの経験を音楽的に統合しようと意欲を燃やした。だがその挑戦は見事に失敗している

トム・ヨーク以外のメンバーによる作曲も増えたことも要因だろうか、アレンジにダブや過度なドラムリズムを要求し、メンバーもそれを咀嚼できないまま形にした。結局端々でハーモニーが瓦解しており、何がしたいのかわからないアルバムになってしまっている。

だが彼らはそれで良いと思っていたようだ。今までの徹底的なこだわりの方が異常だったのだ。メンバーそれぞれが自身の活動の場を持ち、広い視野を持てていた。『The Bends』〜『In Rainbows』まで20年間続いた、“Radiohead”というモンスターに対しメンバー5人がNOを突きつけたのだ。

ちなみに後日、全楽曲を他アーティストがリミックスした『TKOL RMX 1 2 3 4 5 6 7』というアルバムが、バンドから正式にリリースされている。もちろんお遊びの側面もあるだろうが、彼ら自身がオリジナルが気に入っていない、もしくは自身で磨き上げる必要性を感じなかった、というのが内情だろう。

 

<アルバム合計・・・★5>

曲名 評価
1.Bloom
全ての楽器が決まったパターンを繰り返すアンビエントソング。
★★
2.Morning Mr Magpie
小刻みなギターが外壁を形取るロック(?)チューン。
-
3.Little By Little
エキゾチックなメロディが印象的なギターソング。
-
4.Feral
不穏な雰囲気のインスト曲。
-
5.Lotus Flower
三点を描くベースラインが印象的。バラードでありながら、ダンスの要素を取り入れた珍しい楽曲。
★★★
6.Codex
シンプルなコード弾きのピアノソング
-
7.Give Up The Ghost
多重録音のコーラスが印象的なアコギ弾き語り。
-
8.Separator
軽快なリズムで描かれるラブソング
-

 

 

 

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【9作目】A Moon Shaped Pool(ア・ムーン・シェイプト・プール)

前作のリリースから、5年のブランクの後に制作された。この時期が30年のバンド生活において、全てのプレッシャーから解放された最も幸せなひとときだったのではないだろうか。

だが不幸はたいていこういう時に訪れる。ライブツアー中に長年バンドを支えたクルーがステージ崩落に巻き込まれて亡くなり、レコーディング中にナイジェルの父親がガンのために逝去、そしてトムも23年間寄り添った妻と離別することとなった(その数ヶ月後、彼女はガンのため亡くなった)。それらの出来事のためだろうか、本作品には「悲しみ」や「厭世感」が色濃く現れることとなった。

音楽的には、ジョニー・グリーンウッドがオーケストラを参加させた(彼は映画音楽作家やオーケストラとしても活動している)ことで、ピアノと弦楽器をフィーチャーするアレンジが増えた。そのため重厚さ・芸術性が際立つ作品に仕上がっている。

こうしてみると、このアルバムは「レディオヘッドという旅」の終着点のように思える。それほどに成熟さを感じさせる作品なのだ。

 

<アルバム合計・・・★18>

曲名 評価
1.Burn The Witch
幾重にも重なるストリングスがリズムとメロディを描き出す名作。アウトロの不協和音は現代社会の痛烈な風刺。
★★★
2.Daydreaming
ピアノによる壮大なアンビエントソング。間奏のアルペジオがただひたすらに美しい。
★★★★
3.Decks Dark
ピアノバラード。不安を誘うコーラスと曲中盤の展開が心地良い。
4.Desert Island Disk
トムのギター演奏が冴えるバラード。
-
5.Ful Stop
不吉なベースラインが周囲を巻き込んで進む。ギターリフが加わり終焉に向かって加速する。
★★★
6.Glass Eyes
アンビエントなピアノメロディが印象的。周囲を取り巻くオーケストラはもはや現代クラシック。
-
7.Identikit
軽快なドラムのリズムは中盤で一転する。秘かな人気曲。
8.The Numbers
アコースティックギターとストリングスの上質な絡みが楽しめる作品
-
9.Present Tense
ボサノヴァのリズムで絡み合うギターがひたすらに美しい。もはやアート。
★★★
10.Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief
エレクトーンのリズムが安心感を与えてくれる。中盤以降のオーケストラは本アルバムでも一番の存在感。
-
11.True Love Waits
淡々とピアノの音色が響くラブソング。もはや現代アート
★★★

 

 

さいごに!

さて。いかがだったでしょうか。

こうしてみると、彼らがいかにして音楽のジャンルを飛び越え、幅を広げてきたかが良くわかります。どのアルバムも極めてシンプルな動機で作られてるんですよね。まあ、それを形にできるのは彼らの才能がとんでもないからなのですが。

 

気に入ったら歌の「メッセージ」もみてみよう!

今回はあえて触れずにきましたが、彼らのもう一つの魅力は「メッセージ性」にあります。それは、政治や一般大衆への批判、環境破壊への警鐘、多国籍企業への嫌悪など、ありとあらゆるものに向けられています。

レディオヘッドが “世界一クリエイティブ” と言われる所以は、音楽的に素晴らしいだけではなく、音楽を通して「我々は人としてどうあるべきか」を説く、数少ないアーティストだからなのです!

 

各曲の歌詞和訳や解説も、ぜひ覗いてみてください。よりレディオヘッドの素晴らしさを感じることができますよ!

 

 それではまた!

 

 

【歌詞解説】True Love Waits / Radiohead - 3つの視点で描かれる「本当の愛」

この曲が最初に発表されたのは1995年12月のフランス公演。
それから20年後、『A Moon Shaped Pool』に収録されるまで幻の名曲とされてきました。

 

【日本語訳】

私は信念を捨てるわ
あなたとの子供を授かれるなら
私は姪っ子のように着飾って(※)
あなたの膨れた脚を洗うわ(※)

だからどうか
どこにも行かないで
行かないで

僕の生活なんてどうでもいいんだ
ただ時間を潰すみたいにさ
君の小さな手
君の狂おしいほどかわいい笑顔

だからどうか
どこにも行かないで
行かないで

本当の愛は待っている
幽霊の出る屋根裏部屋で
本当の愛は生きている
ペロペロキャンディとポテトチップスの上で

だからどうか
どこにも行かないで
行かないで

 

【歌詞】

I’ll drown my beliefs
To have your babies
I’ll dress like your niece
And wash your swollen feet

Just don’t leave
Don’t leave

I’m not living
I’m just killing time
Your tiny hands
Your crazy kitten smile

Just don’t leave
Don’t leave

And true love waits
In haunted attics
And true love lives
On lollipops and crisps

Just don’t leave
Don’t leave

 

【解説】

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『True Love Waits』が最初に発表されたのは遡ること20年(!)、1995年12月のフランス公演とされています。『The Bends』のツアー中だったレディオヘッドが、トムのアコースティックギターとキーボードの構成でファンに初披露しました。

そこから『OK Computer』『Kid A』・・そして『In Rainbows』、毎回レコーディングにチャレンジするものの、満足のいくアレンジに仕上がらず、なかなかスタジオアルバムに収録されずに来ました。

※『Kid A』の収録時も、エドは「この曲の持つポテンシャルはとんでもないものだ。なんとか形にしようとしているが・・・」と語っていた

 

そして2016年5月、満を持して『A Moon Shaped Pool』に収録されました。最初のギターポップから一転、多重ピアノによるアンビエントソングとして。この「熟成」の裏には何があったのでしょうか。

トムがこの曲にかけた熱意に想いを馳せながら、歌詞を見ていきましょう。

 

ラブソングに似つかわしくない不思議な言葉選び

『True Love Waits』の歌詞には、ところどころ不思議な響きが含まれています。

まず気になるのは「niece(姪っ子)のように着飾る」や「swollen feet(膨れた脚)を洗う」という表現。ただのラブソングにはふさわしくないですよね。(フリフリのドレスを着たトムなんて想像できませんし)

2番では「君のtiny hands(小さな手)」。1番の「You」が子供を作る相手だとすると、奥さんの手をそんな風に表現するでしょうか?

続いて3番の歌詞。「本当の愛はhaunted attics(幽霊の出る屋根裏部屋)で待っている」。「本当の愛はポテトチップスの上で生きている」。もうこれに至っては、もはやどういうこと?という感じですよね。

そして、極め付けはサビで繰り返される「Don't leave(どうか行かないで)」という表現。主人公が幸福の中にいるのなら、これは一体、誰に向けた言葉なのでしょうか?

 

どうやら『True Love Waits』の歌詞は多義的な意味を持っているようです。ちょうど『Fake Plastic Trees』でトムが見せた、複数人の視点から1つのものを描くテクニックだと解釈するのが良さそうです。

※『The Bends』〜『OK Computer』期のトムは、複数の主人公を用いた歌詞を好んで使っていました。『Kid A』以降の一人称的な描写手法を確立するまでは、彼のレトリックセンスは荒削りなものでした

 

そしてここにはただの愛だけではなく、何か悲しみに似た感情さえ感じ取ることができます。それは一体何なのでしょうか?

 

男女の愛、子どもへの愛、そして親への愛をひとつのキャンバスに

まず、トムは「本当の愛」を描くために「愛」を3つに分類しました。

  1. 男女間の愛
  2. 親から子への愛
  3. 子から親への愛

そしてこれを、1番〜3番でそれぞれの視点から描いたのです。

さらに面白いのは、1番の歌詞を「男女」の2人の視点を1つにオーバーラップして描いたことです。だから不思議な響きを持っていたのですね。

 

1番の歌詞を見ていきましょう。
まず男性視点から見ると、このような訳になります。

僕は信念に固執しないよ
君との子供を持てるなら
僕は姪っ子のように着飾って
君の膨れた脚を洗うよ

ここでの「姪っ子のように」は、トム自身のバンドマンとして外で喚き散らしている姿と真逆の存在(甲斐甲斐しいものの象徴)として利用されています。「膨れた脚」というのは、妊娠をした女性に見られる脚のむくみのことでしょう。厭世的な自分を捨て、現実に向き合うよ、ちゃんと1人の男性として君に寄り添うよ、という意思表明です。

 

そして女性の視点から見ると、このような訳になります。

私は信念を捨てるわ
あなたとの子供を授かれるなら
私は姪っ子のように着飾って
あなたの膨れた脚を洗うわ

こちらの方が散りばめられた単語はしっくりきますが、やはり1点「膨れた脚」は不思議な響きを持ちます。男性の脚が膨れるとしたら・・それは打撲?はたまた怪我?一体、何でしょうか。

この謎は次のサビに答えがありそうです。

だからどうか
どこにも行かないで
行かないで

結婚してさあ子供を授かろうという女性は、普通「どこにも行かないで」なんて言いません。この言葉には何か「悲しみ」に似た感情が見え隠れしています。きっとこの男性は二度と帰ってこれない状況にいるのです

「彼」が脚が膨れるほどの怪我を負っており、もう帰ってこないのだと想定すると、彼は大怪我を負ってしまい、天国に旅立とうとしているのです。(おそらくその傷は戦争や闘争で負ったものです)。これから人生を共にしようとする相手と永遠にさよならをしなければいけない悲しみ・・・。

私は信念を捨てるわ
あなたとの子供を授かれるなら

(中略)

だからどうか
どこにも行かないで

男女の愛としてこれほど深いものがあるでしょうか。トムは愛をただの恋愛感情として描くことをやめ、より高次な、普遍的な愛こそが「本当の愛」なのだと説いたのです。

 

また余談ですが、女性視点では別の見方をすることもできます。

トムがよくやる方法ーー聖書や寓話からの引用として捉える方法です。聖書を引用元とするのであれば、「彼」をキリスト、「女性」をマグダラのマリアと考えるのが面白いかもしれません。マリアはキリストの最後を看取る女性とされています。裸足で鞭を打たれながら、最後に磔にされた「彼」の脚を、涙で濡らした布で清めるマリア。彼は二度と帰ってこないと知りながら

彼女の心の中にも「本当の愛」が芽生えていたことは想像に難くありません。

 

親になるということ。それは究極の自己犠牲。

2番の歌詞は「親」の視点になります。(ここは主人公を男女どちらにしても同じ訳になるので、便宜上、男性視点としています)

僕の生活なんてどうでもいいんだ
ただ時間を潰すみたいにさ
君の小さな手
君の狂おしいほどかわいい笑顔

 

親になるということは、 人生の主人公を子供にバトンタッチすることです。自分のこれからの人生すべてを捧げて、1人の人間に託すこと。それは究極の自己犠牲です。

トムが第1子、ノアくんを授かるのは2001年。この曲を作った6年後です。きっとそれに先立って彼は子供を授かること、親になることとは何かを本気で考えていたんだと思います。バンドマンとしての自分と、親としての自分。そしてたどり着いたのが「自己犠牲」の精神だったのです。

もちろん当時の彼にとって、親になることは想像でしかなかったと思いますが、その後20年の間にその考えは確信に変わっていったのでしょう。歌詞を変えずにスタジオ録音されたことは、それを物語っています。

そしてその自己犠牲の精神で得たもの(人生のすべて)をもし失ったとしたら・・・。そう考えると彼は居ても立っても居られなくなったことでしょう。その気持ちの中にも「本当の愛」が存在している、彼はそう考えました。

だからどうか
どこにも行かないで
行かないで

いま手にしている幸せも不変のものではない。だからこそ愛おしさを感じるべきだ、というメッセージが隠れているのです。

 

孤独な子供が求めたもの。それは究極的な愛。

いよいよ最後、3番は子供から親への愛です。

ただ普通の子供は、親を当然のことのように感じています。何の疑いもなくごはんを作ってもらい、当然のようにおもちゃを与えてもらいます。トムは親と子供の愛を描くために、いろいろ頭を悩ませたことでしょう。そんなある日、彼はある悲しい事件を耳にします。

(幽霊の出る屋根裏部屋・・・の歌詞は)
トムが、何日にもわたり両親に放置された1人の子供がジャンクフードで食いつないで生き延びた、という話にインスパイアされたものだ。この歌には「嘆願」の意が含まれており、それは「どうか行かないで」という繰り返しで表現されている。

参考:True Love Waits (song) - Wikipedia

まだ幼く力を持たない子供が、孤独の中で取った行動。それは暗い部屋でお菓子で食いつなぎながら、何とかして生き延びるという選択でした。

トムはきっとその事件に強く心を傷めたことでしょう。そしてその子供の心を自分に投影したとき、それが自分の考えていた「究極の愛」なのだと理解したのです。

本当の愛は待っている
幽霊の出る屋根裏部屋で
本当の愛は生きている
ペロペロキャンディとポテトチップスの上で

この子供は救いを待っていたのです。来る日も来る日も・・いつ来るかもわからないその日をーー親の愛を。

だからどうか
どこにも行かないで
行かないで

この嘆願は、力を持たない子供が唯一望む願いでした。そしてこれは、ちょうど神という絶対的な存在に救いを求める人々の比喩でもあるのです。

 

トムは『True Love Waits』において、主人公たちを極限状態に置きました。そこで現れる愛こそが、混ざりっけのない「本当の愛」だと、彼は知っていたのです。

 

レコーディングされたピアノバージョン

彼にとってのラブソングはここで完成していたのかもしれません。巷で歌われる、ラジオの空き時間を埋めるだけのような「愛」とは一線を画す「本当の愛」がこの歌には込められています。

冒頭でも述べましたが、その後20年間、彼はこの歌を形にすべく奮闘することになります。ギターロックバンドとして世界の頂点に立っても、『Kid A』期で誰も手にしていなかった表現手法を手に入れても、『In Rainbows』期でロックを完成させても、彼はこの歌を完成させることはありませんでした。それほどまでに、彼にとってこの曲は特別なものであり、人生を賭して磨き上げるべきものだったのです。

 

そして『A Moon Shaped Pool』期、ついに彼は筆を置きます。このアルバムが持つ「死」への言及が、この歌の終着点だったのです。ギターとキーボードのリズムによるポップさはすべて削り落とされ、この稀代のラブソングは、最低限のピアノによる弾き語りとして録音されました。彼は「死」という極限状態を目前にして、「本当の愛」が輝くのを目にしたのかもしれません。これは皮肉なのか、はたまた運命だったのか・・・。

 

もちろん、アルバムリリース後の公演でも、旧来のアレンジ(ギターポップバージョン)も演奏されているので、バンドの中でも意見が割れているのでしょう。(得にエド・オブライエンはギターバージョンを主張してそうですよね)

きっとファンのみなさんの中でも意見は割れていると思います。でもトムがこの歌詞に込めたかった意味を考えると、壮大なアレンジではなく、ミニマルな構成が最も適しているのではないでしょうか。(とは言いつつも、バンドアレンジも最高に素晴らしいので、冒頭の映像はそちらを引用させていただきました)

 

この歌は、我々が持つ愛という概念そのもの変えてしまう力をもっているかのようです。

今回はそんなトム・ヨーク流のラブソングの紹介でした。

 

 

 

 

<あわせて読めば、もっと深読み>

 

・『True Love Waits』と同時代に作られたラブソング

 

愛する人の死を受け入れることができるか。『A Moon Shaped Pool』収録。

  

・人生を捧げた相手へのレクイエム。『A Moon Shaped Pool』収録。

 

【歌詞解説】Ill Wind / Radiohead - 愚かさが招いた不吉な風

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『A Moon Shaped Pool』の特別版にのみ収録されたボーナストラック。
2019年1月にストリーミング配信が解禁された。
歌詞は止められない出来事を憂う内容となっている。

【歌詞】

Keep your distance
Then no harm will come

No ill wind
Will blow
Will blow

Sudden... words
Must never be spoken

An ill wind
Will blow
Will blow

Keep your cool
Do not give into emotion

An ill wind
Will blow
Will blow

 

【日本語訳】 

距離を保つんだ
そうしたら もう悪いものは来ない
不吉な風も 吹くことはない
吹くことはない

突然投げかけられた言葉
それは決して口にしてはいけない言葉

ああ 不吉な風が
吹いてくる
吹いてくる

冷静になるんだ
感情に流されるんじゃない

ああ 不吉な風が
吹いてくる
吹いてくる

 

【解説】 

"ill wind"(イル・ウィンド)はイギリス英語の口語で使われるもので「悪影響を与えるもの」という意味だそうです。日本語でも「風向きが悪くなってきた」みたいに風を比喩として使いますよね、そんな感覚に近いものだと思われます。

(訳では「不吉をもたらす風」というニュアンスで捉えました)

 

過去に作られた未来の暗示

音作りはギター&ストリングスサウンドに、『In Rainbows』時代の音源をごちゃまぜにしたような構成になっています。エレクトリックピアノアルペジオは最初期の『Arpeggi』を彷彿とさせますし、シンセサイザーのリズムは『Supercollider』のバックトラックをそのまま持ってきたかのようです。

 

 

 

『A Moon Shaped Pool』に収録されてはいるものの、この時期に作られた楽曲たちとは明らかに異なる音作りがなされています。おそらく曲自体は相当前に出来上がっていたのでしょう。

では彼らは『The King of Limbs』にも収録しなかった楽曲を、なぜ2016年になってあえてリリースしたのでしょうか?

 

不吉な風がすぐそこまで来ていた

2016年のイギリスにおける大きな出来事といえば1つしかありません。イギリスのEU離脱決定です。EU全体が難民受け入れで大混乱に陥っていた頃、唯一の島国である大国イギリスは対岸の火事から目を背ける決断をしてしまいました。
(2016年2月20日国民投票の実施を宣言)

参考:イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票 - Wikipedia

 

そして来たる2016年6月23日に国民投票が行われ、過半数の国民の賛成によりEU離脱が決定づけられました。『A Moon Shaped Pool』がリリースされたのが2016年5月8日。英国を二分する議論がなされていた、まさにそのときだったのです。

 

時代を超えた奇妙な符合

ただ前述の通り、この曲はもっと以前に作られていたはずです。私が思うに、作られた当時は歌詞も全く違う意味を帯びていたのだと思われます。(それはきっと「内なる悪から逃れたくても逃れられない。心の中に"ill wind"が吹いてくる」といったニュアンスだったのでしょう)

 

でも2016年の状況下において、この歌は奇しくも皮肉めいた意味を帯びることになりました。

 

距離を保つんだ
そうしたら もう悪いものは来ない
不吉な風も 吹くことはない

 

おそらくレディオヘッドはここに奇妙な符合を感じ取り、いまがこの曲が世に出るべき時期なのだと考えたのでしょう。(ただしアルバム自体に入れるとせっかくの世界観が崩れてしまうため、2曲しか入っていない全く別のCDとして世に出したのだと思われます)

 

イギリス国民が主権という名の「愚かさ」を振りかざして得た宝箱は、混沌を招き入れてしまうパンドラの箱でもあるのです。EU離脱により、イギリスが、欧州が、そして人類全体が不吉なものに飲み込まれつつある情景が浮かんできます。

 

冷静になるんだ
感情に流されるんじゃない

ああ 不吉な風が
吹いてくる
吹いてくる 

 

発足から25年、このまま本当にイギリスが離脱してしまえば、他の国もそれに続くでしょう。平和と調和の象徴であったはずのEUが崩壊することは、人類の敗北すら意味する未曾有の出来事になります。

 

 

正直、いまの世界情勢は何本かネジが外れたみたいです。

私たちは一体どこに向かっているのでしょうか。

 

 

ああ 不吉な風が 吹いてくる

 

 

 

 

<あわせて読むともっと深読み>

同時期のEU(世界)を象徴したような鮮烈な歌詞