深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】Daydreaming / Radiohead - 愛に生きた者への鎮魂歌

 

【歌詞】

Dreamers
They never learn
They never learn
Beyond the point
Of no return
Of no return
Then it's too late
The damage is done
The damage is done

This goes
Beyond me
Beyond you
A white room
By a window
Where the sun comes
Through
We are
Just happy to serve
Just happy to serve
You

(xxxxxxxxxxx) (※)

※『Half of my life』の逆再生(らしい)。真偽のほどはわからない

【日本語訳】

夢追い人は決して学ばない
引き返せない地点を越えて...
もう手遅れなんだ...
もう傷は負ってしまったんだ...

これは僕を越えて、君を越えていく
太陽が通り過ぎる、とある白い部屋の窓際
僕たちは...
僕たちは...あなたに仕えることができて本当によかった

(xxxxxxxxxxxx)

 

【解説】 

美しくも儚いアルペジオと、ストリングス。
優しく包み込む電子音と、悲しげなコーラス。
そしてトムの透明な歌声。

それら全てが調和したRadiohead史上、最も美しいシンフォニーの1つです。

リリース時の、トムの時代的心境

この曲がリリースされたのは2016年5月。

前年にトムは23年間寄り添った妻レイチェルと離婚しており、翌年12月にその妻を亡くしています。離婚前に妻の病気がわかっていたのか、それがお互いの進む道に影響を与えたのか、我々には知る術はありません。

ただ、この曲には『別れ』が大きなテーマとして組み込まれていることだけは確かだと感じられます。

MVの違和感について考える

トムがトンネルの向こう側から歩いてくる
(その奥にも同じような人間が数人歩いてきています)

彼はドアを開け、中に入る
ドアはいろいろな部屋につながっており、その中をさまよい続ける

ドアを開け、階段を登り、ドアを開け・・・

最後のドアは雪山につながり、雪を避けるように洞窟の中に潜り込む
くべてあった火を前に、安息の表情を浮かべ・・人間の声ではない音が聞こえる

 

・・・違和感を感じませんか?

ドアがいろんなところにつながっていること。それも意味深です。

ただそれ以上に不気味なのは、明らかに他人の家なのに誰一人気にする様子がないことです。どうやらトムは住人には『見えていない」存在のようです。

 

死者の視点から生命の尊さを説く

ここには1つのストーリーが読み取れます。

トムは『ダメージを負ってしまった』ため、いままさに死んでしまったと考えましょう。冒頭のトンネルは、死者の通る道なのでしょう。彼の他にも数人が歩いてきます。 

これは曲中ではピアノによるアルペジオとして表現されます。聴き手をどこかに運ぼうとする推進力と、そのそばをかすめるように逆再生のバックコーラスが流れていく表現。ここには多数の人間の存在を感じることができます。

彼らは天国に向かう前に、現世を見て回るのです。そうです。トムは他人の家を徘徊しているわけではないのです。彼は映像の上では一人ですが、本当は何人もの人間がオーバーラップしている存在として描かれているのです。皆が自分の家や慣れ親しんだ日常に帰って来ているのです。

 

『夢追い人』は誰だ?

ではなぜ彼らは同時にここに存在するのでしょうか?

これも映像から推し測ることができます。ここに出てくるのはスーパーマーケットで買い物をする母子や、家で一人新聞を読む妻、病院の医者や看護婦たち。英国の男性は出てきません。死んだ者たちは男性であり、妻や子を持つ夫たちなのです。

『あなたに仕えることができて良かった』というのは、果たして戦争で国に身を捧げた(または愛する者のために命を捧げた)人の最期の言葉だったのです。

でも曲はここで終わりません。アルペジオに誘われて天国に登った先で、おぞましい低音をもって終止符が打たれます。これが彼らの発したものなのか、はたまた地獄の悪魔が嘲笑う声なのかはわかりません。ただ、ここには苦悶や後悔の念を感じとることができます。誰かのために命を捧げた自己犠牲は決して『あなたに仕えられて~』といった美談で終わることはないのです。

※ここにはNo Surprisesの『ああ、なんて美しい庭なんだ』と歌いながら、バックコーラスが『ここから出してくれ!』と叫ぶ、あの辛さが思い起こされます

 『夢追い人たち』は日常を戦争へと駆り立てた政府への揶揄でもあり、それが正義だと信じて疑わなかった市民一人一人でもあったのです。

 

一人の女性への愛と別れを、普遍的な人間のテーマとして昇華する彼らの音楽性には、本当に畏敬の念を感じます。

 

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