深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】Identikit / Radiohead - 崩れゆく愛の記憶は...

死が愛を引き離す、誰にも訪れる事象を綴った歌。
映像は2013年以前のライブ収録音源。

【和訳】

<イントロ>
水たまりの形をした月
ゆらめく衣は私を招き入れない
そして私は知った
それは二度と私に訪れないことを…

無垢な顔をした人々
その中には何も残されていない
私たちはみな、あなたたちを愛することができる…
愛することが…
(繰り返し)

でもいま私は
君と私がじゃれあっているのを見ている…
認めたくない…認めたくない…
君と私がじゃれあっているのを見ながら…
認めたくない…認めたくない…

心の痛みが雨を降らす
心の痛みが雨を降らす
心の痛みが雨を降らす
心の痛みが雨を降らす
(繰り返し)

私たちが創れる人形の形をした人間
私たちが創れる人形の形をした人間

でも君と私がじゃれあっているのを見ながら
認めたくない…認めたくない…
私はいま、君と私がじゃれあっているのを見ている
認めたくない…認めたくない…

【歌詞】

<Intro>
A moon shaped pool
Dancing clothes won't let me in
And now I know it's never gonna be on me

The sweet-faced ones with nothing left inside
That we all can love, that we all can love, that we all can
Sweet-faced ones with nothing left inside
That we all can love, that we all can love, that we all can

But now I see you messing me around
I don’t want to know, I don’t want to know, I don’t want
When I see you messing me around?
I don’t want to know, I don’t want to know, I don’t want to know

Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain
Broken hearts
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain
Broken hearts make it rain, broken hearts make it rain

The pieces of a ragdoll mankind
That we can create, that we can create, that we can
Pieces of a ragdoll mankind
That we can create, that we can create

But when I see you messing me around
I don’t want to know, I don’t want to know, I don’t want
Now I see you messing me around
I don’t want to know, I don’t want to know, I don’t want to know

 

【解説】

「Identikit」は愛する人を失う悲しみを描いた曲となっています。

この曲が収録された『A Moon Shaped Pool』のリリースが、ちょうどトムの元妻・レイチェル(正確には事実婚)を亡くした年と重なるため、巷では彼女のことを歌ったのではと囁かれていますが、実際には曲の原型も歌詞もかなり以前より完成しており、直接それを描いたものではなく、より普遍的な出来事について述べた歌詞だと考えられます。

(もちろん今となっては、トムにとって彼女の死とは切り離せない歌となってしまったわけですが...)

 

無垢な顔をした人々 その中には何も残されていない

まず「無垢な顔をした人々 その中には何も残されていない」という歌詞ですが、これは「亡くなった人々」を詩的に表現したものです。

私たちが葬儀場で目の当たりにする、花に囲まれて棺桶に入った人のことです。
死化粧を施されて美しい顔をしていますが、もはや魂が抜けてしまった入れ物です。2番では「人形の形をした人間」とも表現されています。

彼(または彼女)を目にすると、私たちは自然と涙がこぼれてきます。
それが愛する人であればなおのこと。その悲しみは嵐のように押し寄せてきます。

「水たまりの形をした月 ゆらめく衣は私を招き入れない」というのは、涙でぼやけた夜空でしょうか。あるいは愛する人を空の彼方へと連れ去ってしまった天使の羽衣のゆらめきでしょうか。

いずれにしても、共に過ごした日々は「二度と私に訪れない」ものとなってしまったのです。生きるものは決して、死者と会うことはできないのです

 

「Identikit(モンタージュ写真)」の曲名が表すものとは?

もし死が私たちを別つとしても、私たちは亡くした人を想うことができます。
ともに過ごした日々を思い起こすことができます。

でも、それは偽物でしかありません。
いくら脳裏に思い浮かべても、彼女は私たちとは別の世界にいるのです。
そして時間は残酷で、次第に彼女の顔もあやふやになっていきます。まるでモンタージュ写真のように。

彼女とじゃれあった情景を思い浮かべる時、それに気付かされるのです。
「認めたくない」のは、そんな大切な思い出を削り取られていく人間の、そして自分の愚かさなのです。これはどれほど悲しいことでしょうか。

 

Radioheadが愛を真正面から描くとこうなるんですね...。

愛する人と過ごせる、1日1日を大切にしましょう。
そんな当たり前で、それでいて最も大切なことを私たちに教えてくれる1曲です。

 

この愛の形は、トムのソロアルバム『ANIMA』でも語られます。

 

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