深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説・和訳】Follow Me Around - Radiohead / かつての自分の姿を追い求めて

レディオヘッドの「Follow Me Around」の和訳と、歌詞の解説です。記事後半では『KID A MNESIA』収録とは全く違うアレンジの最新バージョンについても紐解いていきます。

 

『KID A MNESIA』に初収録された未発表曲。
逃げ惑う男性はガイ・ピアース。クリストファー・ノーラン「メメント」の主役を演じた俳優。
(あの好青年が...時の流れって恐ろしいですね...)

【歌詞】

I see you in the dark
Corner of the street
Comin' after me, yeah

Headlights on full-beam
Comin' down the fast lane
Comin' after me

You follow me around
You follow me around
You follow me around
You follow me around

Blowin' holes in everythin'
Thatcher's children
See you on the way back down
Drooling Looney Tunes
Movin' in a swarm
Movin' in a swarm

You follow me around
You follow me around
You follow me around
You follow me around

Na-da-da-da-da-da
Na-da-da-da-da-da, yeah
Na-da-da-da-da-da
Na-da-da-da-da-da, yeah

Nowadays I get panicked
I cease to exist
I have ceased to exist

I feel absolutely nothin'
The words are out of ink
The words you know are out of ink

You follow me around
You follow me around
You follow me around
You follow me around

Na-da-da-da-da-da
Na-da-da-da-da-da, yeah
Na-da-da-da-da-da
Na-da-da-da-da-da, yeah

 

【和訳】

暗がりにひそむ君が
通りの曲がり角から
ぼくのあとをついてくる

まぶしいヘッドライトが
追い越し車線に沿って
ぼくのあとについてくる

君はぼくに付きまとう
君はぼくに付きまとう

あらゆるものに壊して回る
サッチャー・チルドレンが
帰りがけの君に会う

よだれをたらした ルーニー・テューンズが
群れになって動く
群れになって動く

君はぼくに付きまとう
君はぼくに付きまとう

ダダダ
ダダダ、イエイ

このところ ぼくは混乱してるんだ
ぼくは存在しなくなる
ぼくは存在しなくなってるんだ

ぼくは全く何も感じないんだ
言葉はインク切れになって
君の知る言葉はインク切れになって...

君はぼくに付きまとう
君はぼくに付きまとう

ダダダ
ダダダ、イエイ

 

【解説】

『Kid A Mnesia』に期待しすぎたせいでしょうか。待望の未発表曲としては物足りなく感じます。全く編曲されていないですし、歌詞も微妙なんですよ。

(でもご安心ください。後半であっと驚く展開が待ってますよ)

ぼくに付きまとう「何か」?

この楽曲の主人公は、いつも何かにつきまとわれていて、落ち着くことができない状況にいるようです。「暗がりの君」や「ヘッドライト」が忍び寄り、主人公を追い回します。これはレディオヘッドに対する無遠慮なファンであったり、不本意なスポットライトの比喩だと思われます。

「ぼくは存在しなくなる」のくだりは同時期に制作された「How To Dissapear Completely」のテーマとよく似ています。周りから追い立てられ続けたトム・ヨークが、段々と現実を正しく認識できなくなっていく様が赤裸々につづられています。

この「主人公に付きまとう何か」は、PVでもとてもうまく表現されています。とてもパーソナルな悩みについての楽曲です。

サッチャーを持ち出した意味は?

「Follow Me Around」はとてもパーソナルな楽曲に思えます。ただ、そうすると「サッチャー・チルドレン」のくだりがよくわからないんですよね。

「サッチャー」は英国初の女性首相、マーガレット・サッチャー首相のことでしょう(1979年就任)。断固とした政策実行の態度は、鉄の女の異名で知られます。そして「サッチャー・チルドレン」とはこの政策下で育った人々のことらしいです。(日本で言うと、ちょうど団塊の世代にあたりますかね)

強いイギリスを掲げているらしいので「あらゆるものを破壊して回る」というのは、保守的な慣習に風穴を開ける的な意味があるのですかね。

うーん?

ちぐはぐな歌詞。未完成の楽曲

何が分からないかというと、この曲のパーソナルな側面と、政治的な言及の側面がうまく噛み合わないんですよ。なんだか若手アーティストが背伸びして政治的なこと言ってみた、みたいな気恥ずかしい雰囲気が漂っちゃってるんですよね。

あと1番のサビの「You」も何を指すのでしょうか・・・。脅迫観念に対して普通は「君」って言わないですよ。「君」って言うからには、誰か実態を伴った人(または群衆)を指すはずです。だからこれは、無遠慮なファンやメディアに対する恨み節に聞こえちゃうんです。

まあ、それらの人々を名指しして「俺につきまとうな!」と叫びたくなるほど、当時のトムは切羽詰まってたと捉えることもできます。ただ結果的にこの楽曲は『Kid A』にも『Amnesiac』にも収録されませんでした。歌詞も未完成ですし、音楽的にもきっと納得するアレンジができなかったんでしょう。(「If You Say The Word」と同様の理由で収録されなかったのだと思われます)

まあ、若かりし頃のトム・ヨークを知る上では貴重な楽曲ですね。


...なんて思っていたのですが、なんと「Follow Me Around」の最新版が存在したんです!


これが本当の「Follow Me Around」だ!

それは2017年8月20日の、トムとジョニーだけのライブ・パフォーマンスでのこと。
しかもこちらではアレンジが洗練されているだけでなく、いわく付きの歌詞も書き換えられています。

 

【歌詞:2017年ライブ版】

※太字は変更された箇所

I see you in the dark
Corner of the street
Comin' after me, yeah

Headlights on full-beam
Comin' down the fast lane
Comin' after me

I would like to change back now
To the shadow of
The shadow of my former self

It follows me around
It follows me around
It follows me around
It follows me around

Hum..
Hum..

Did you lie to us Tony?
We thought you were different
Now you know we’re not so sure
Drooling Looney Tunes
Moving in a swarm
Moving in a swarm

You follow me around
You follow me around
You follow me around
You follow me around

Hum..
Hum..

You follow me around
You follow me around
You follow me around
You follow me around

 

【和訳:2017年ライブ版】

暗がりにひそむ君が
通りの曲がり角から
ぼくのあとをついてくる

まぶしいヘッドライトが
追い越し車線に沿って
ぼくのあとについてくる

ぼくはもとに戻りたい
かつてのぼくの面影に

それはぼくに付きまとう
それはぼくに付きまとう

フムム...
フムム...

ぼくらに嘘をついたの、トニー?
君は他とは違うと思っていたのに
いまや君は知ってる 僕らの信頼が失われたことを
よだれをたらした ルーニー・テューンズが
群れになって動く
群れになって動く

君らはぼくに付きまとう
君らはぼくに付きまとう

フムム...
フムム...

君らはぼくに付きまとう
君らはぼくに付きまとう

 

あるべき姿を与えられた楽曲

そうそう、これだよ!

原曲のアコースティックギターによるフィジカリティは解体され、新たなリズムとリフを獲得しています。まるで「Supercollider」(2011)や「Ill Wind」(2015)を彷彿とさせますね。作曲から15年の時を経て、ようやく正しい形を見出した感があります。

ちょうどアコースティックでライブ披露された「Lotus Flower」が、全く新しいベースラインを得てスタジオ収録されたのを初めて聴いたときのような感動を覚えました。

レディオヘッドというバンド(もといトム・ヨーク)は、楽曲のアレンジにめちゃくちゃこだわることで有名です。「True Love Waits」なんて、作曲からアルバム収録まで20年近くかかりましたし。この「Follow Me Around」も15年間トムの中でくすぶり続けていて、ようやくあるべき姿を与えられたわけです。

トムの心の整理のため

これだけ良い感じのアレンジができたのなら、新たにスタジオ収録して新作に入れればいいのにと思うのは私だけでしょうか? ただアルバム収録するには、あとワンピース足りない気もするのもまた事実。未完成版を『KID A MNESIA』に収録したのは、もしかすると楽曲を供養する意図があったのかもしれません。どこかで区切りをつけないと、ずっとつきまとわれちゃいますからね(it follows me around)


変更された歌詞

せっかくなので、変更された歌詞について見ておきましょう。

ぼくはもとに戻りたい
かつてのぼくの面影に

冒頭にこの一節を加えることで、原曲の被害者意識が和らぎ、一人の理性をもった人間として再構築されています。

それはぼくに付きまとう

もうひとつの見どころは、1番の歌詞で漠然としていた「You」が「It」に変わっている点ですね。ここでの「It」は「かつてのぼくの面影」ですから、このくだりは、現在の自分と、過去の自分との葛藤を表すようになりました

いまの自分は、思い描いた理想の姿ではないわけです。主人公は決して気が触れているのではなく、昔に戻ってやり直したいだけだったのですね。対比的に現在の行き詰まり感が露わになっています。

ぼくらに嘘をついたの、トニー?
君は他とは違うと思っていたのに
いまや君は知ってる 僕らの信頼が失われたことを

また、サッチャーのくだりは削除され、新たに「トニー」が登場しました。一瞬「誰?」と思いましたが、この楽曲の制作経緯から考えると「トニー」は元英国首相、トニー・ブレアのことでしょう。サッチャー・チルドレンはブレア首相のことだったのですね! (もちろん保守党と労働党の違いはあれど)

ブレア首相1997年に就任してますから、制作の背景に絡んでいてもおかしくないですね。ちなみにトムがブレア首相に対して良い感情を持っていないのは有名です。

「当時はイラク戦争の真っただ中で、その一方でザ・ビッグ・アスク・キャンペーンも評判ですごく成果を上げてたんだ。それでブレアは『この人物には会わない手はないな』って企んだんだね。(中略)でも、イラク戦争のことがあったからぼくは首相には会いたくなかった。ぼくのモラルとしてブレアとにこやかに写真に収まることなんてありえないことだったんだ」(トム・ヨーク)

引用)トム・ヨーク、03年にトニー・ブレアとの2ショットをごり押しされそうになったと明かす (2015/11/26) 洋楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

 

政治的に思われた部分は、とても身近なメッセージだったんですね。環境問題をはじめとして、難題に取り組むと期待された政界のホープは、いつしかブッシュ政権の軍門に下り、幻滅の象徴と成り果ててしまいました。トムの失望はとても大きいものだったようです。歌詞にそのまま書くくらいですもの。いまだに引きずっているんですね...笑

とはいえ、ライブ・パフォーマンスでの歌詞ですからね。即興かもしれないですし、一時的なリップサービスかもしれません。アルバム収録しなかったのは、こういった背景もあるのかもしれませんね。

きっとこれからは、ライブ限定で披露される1曲になるのだと思われます。

 

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おまけ

ちなみに「Looney Tunes(ルーニー・テューンズ)」がなにか気になりませんか?

これ、ワーナー・ブラザースのアニメシリーズなんです。こんなキャラクター見たことありますよね!

 

https://warnerbros.co.jp/c/characters/looney_tunes_top_kv.jpg

個性的なキャラクターによるドタバタ劇をもとに、現代社会の人々を揶揄しているんです。まるで、政治に期待した君たちは「よだれをたらしたルーニー・テューンズ」だと。ときどきトムはこういうお遊びを入れてきます。「Burn The Witch」の「Sing A Song Of Sixpence」とか、「Cymbal Rush」の「Ten in the Bed」とか。

そういえばトムは「Cybmal Rush」でもブレア批判してましたね。政治的批判をするときに、子供ぽさを加えちゃうのはきっと癖なのですね(笑)