深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Cymbal Rush / Thom Yorke - 悪意を認識していない政治家や資本家たち

 

『The Eraser』セッションの最後に完成した一曲。
映像は同曲の最も優れたライブ映像と名高い、2010年フジロックでの演奏。

【歌詞】

Try to save it but it doesn't come off the rug
Try to build a wall that is high enough
It's all boiling over
It's all boiling over
Try to save your house
Try to save your songs
Try to run but it follows you up the hill
It's all boiling over
It's all boiling over
Your loved ones
Your loved ones

No more conversation
No more conversation
You should have took me out when you had the chance
You should have took me out when you had the chance
All the rooms renumbered
And losers turned away
Don't turn away (You should have took me out when you had the chance)
Don't turn away (You should have took me out when you had the chance)

There were ten in the bed
And the little one said
Roll over
There were ten in the bed
And the little one said
Roll over

 

【日本語訳】 

君はそれを残そうとする
でもそれは絨毯にこびりついている
君は十分な高さの壁を築こうとする
もう手がつけられない
もう手がつけられない

君は家を守ろうとする
君は歌を守ろうとする
君は逃げる...
でもそれは丘の上まで追いかけてくる
もう手がつけられない
もう手がつけられない
君が愛したもの...
君が愛したもの...

もう話し合いはできない
もう話し合いはできない
君はチャンスがあるうちに僕を追い出しておくべきだったんだ
君はチャンスがあるうちに僕を追い出しておくべきだったんだ

新しい番号に付け替えられた部屋が並ぶ
追い払われた敗者たち
いかないで...
(君はチャンスがあるうちに僕を追い出しておくべきだったんだ)
いかないで...
(君はチャンスがあるうちに僕を追い出しておくべきだったんだ)

ベッドの中には10人の子ども(※)
小さい子が言った 「転がれ〜」

ベッドの中には10人の子ども
小さい子が言った 「転がれ〜」

※ 英語の数え歌『Ten in the Bed』からの引用

 

<主要単語>
・all boil over:吹きこぼれている、手がつけられない状態
・save:今の状態を残す、守る
・turn away:追い払う(他動詞)、背を向ける(自動詞)

【解説】 

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<画像引用元:http://www.theeraser.net/

 

『Cymbal Rush』は、2006年発表『The Eraser』に収録された曲です。
表題曲と並んで、このアルバムの主要曲となっています。

ロンドンの町並みが洪水に飲み込まれているコンセプトアートでも表現されているように、環境破壊や温暖化がこのアルバムのテーマになっています。

ただ、トムは単に「自然を守ろう」と言っているのではありません。

「認識していない悪意が世界を壊している」という現代政治に対しての嫌悪感をこのアルバムに込めたのです。

 

(日本人アナウンサーによる、最高にシニカルなインタビュー)

全てが吹きこぼれている世界の終焉

トムはこの曲で、現代生活が終焉を迎える姿を描きました。
街が洪水に飲み込まれて「手がつけられない」状態です。

でも”人々”は、この後に及んで大事なものを守ろうと必死です。
この曲での”人々”は「善良な市民」ではなく「悪意を認識していない政治家や資本家たち」を指していると捉えましょう。

<悪意を認識していない例>

・正義を掲げた戦争 → 暴力による報復の連鎖(テロ)
・人類史上最高の生活 → 環境破壊による世界の破滅(温暖化)
・資本主義の掲げる機会平等 → 実質的な貧富固定システム(格差)

有史以来2,000年経った現代社会。
複雑に絡み合った問題が、まさに「吹きこぼれている」状態というわけです。

君はチャンスがあるうちに僕を追い出しておくべきだったんだ

歌詞を見ていきましょう。

君は家を守ろうとする
君は歌を守ろうとする

この表現も個人のものというよりは、もっと権力的なもの ー例えば「国家」や「国歌」と捉えた方がしっくりきますね。地球や生命・人々の幸せなど、もっと守るべきものがあるはずなのに。

君は逃げる...
でもそれは丘の上まで追いかけてくる
もう手がつけられない
(中略)
もう話し合いはできない
君はチャンスがあるうちに僕を追い出しておくべきだったんだ

「君」は前述の通り「権力者」として捉えましょう。
彼らは逃げ出します。世界は彼らによって破滅してしまったんです。

トムは「僕を追い出しておくべきだった」と歌います。
「僕」とは「悪意」のことでしょう。『There There』の表現でいうところの「肩に乗って囁く悪魔のような存在」のことです。

トムは具体的な人物を絶対的な悪とは言いません。彼が名指しするとき(当時におけるブッシュやブレア)、その後ろの「悪魔」を引き合いに出すのです。彼らは「悪魔」にそそのかされた被害者であるとして、むしろ憐れみの対象にすらしているわけです。

最後は1人になった

トムの終末思想はさらに進みます。

新しい番号に付け替えられた部屋が並ぶ
追い払われた敗者たち
いかないで...

破滅した世界では、今までの序列は崩壊してしまうと説きます。これは単に人間社会の序列を表すわけではありません。人間を含むあらゆる生命が大きなダメージを受け、まったく異なる世界に変貌してしまうということです。

ベッドの中には10人の子ども
小さい子が言った 「転がれ〜」

この部分は、英語圏の子供のための数え歌『Ten in the Bed』からの引用です。
(10人の子供が順番にベッドから転がり落ちていき、最後に1人になってしまうというストーリー)

社会に生きる人々が、地球上の生物が、ステージから引きずり降ろされて1人ずつ消えていく圧倒的な悲しみを、トムはこの無邪気な歌詞に載せて歌うのです。

トムらしい、皮肉に満ち溢れたユーモアですね...。

 

「悪意を克服し、民主主義を市民のもとに取り返そう」
「正しさを見つめ直し、資本主義を全生命まで考慮した持続可能なものに組み直そう」

そういったメッセージを、あえて破滅した世界から説くことで強烈に際立たせているわけですね。

 

控えめに言って、最高のロックソングです。

 

<付録>

♪ Ten in the Bed(テン・イン・ザ・ベッド)

英語の数え歌のひとつ。
歌詞のtenの部分を、nine eight seven six five four three two oneと1つずつ数を減らす数え歌。

There were ten in a bed
And the little one said
"Roll over, roll over"
So they all rolled over
And one fell out

(中略)

There was one in a bed
And the little one said
"I'm lonely/だぁれもいない"

この動画では最後の終わり方がI'm lonelyですが、Good night/おやすみなさいの方で終わる数え歌も多くあります。

 (引用元:テン イン ザ ベッド(ベッドに10人)/Ten in the Bed - 英語の歌であそぼ

 

<あわせて読むともっと深読み>

『Burn The Witch』にも、童謡の一節を引用しています
〜『Sing the song of sixpence(6ペンスの唄)』〜

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