深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】How To Disappear Completely / Radiohead - 完璧に姿を消す方法

「How to Disappear Completely」は『Kid A』の4曲目に収録された楽曲。タイトルは「完璧に姿を消す方法」という意味。厭世的な歌詞と、夢の中を彷徨うようなストリングス、そして電子音が見事に融合したレディオヘッド史上屈指の名曲。オンド・マルトノによる不協和音は21世紀になっても色褪せることはない。 

歌詞

That there, that's not me
I go where I please
I walk through walls
I float down the Liffey

I'm not here
This isn't happening
I'm not here
I'm not here

In a little while
I'll be gone
The moment's already passed
Yeah, it's gone

And I'm not here
This isn't happening
I'm not here
I'm not here

Strobe lights and blown speakers
Fireworks and hurricanes

I'm not here
This isn't happening
I'm not here
I'm not here

 

和訳

そこのそれ
それはぼくじゃない
ぼくは好きなところに行く
壁を通り抜けて
リフィー川を渡る(※)

ぼくはここにいない
これは起こっていない
ぼくはここにいない
ぼくはここにいない

もうすこししたら
ぼくはここを去る
つかの間の時間
ああ もう過ぎてしまった

ぼくはここにいない
これは起こっていない
ぼくはここにいない
ぼくはここにいない

ストロボライト 吹き飛んだスピーカー
打ち上げ花火と ハリケーン

ぼくはここにいない
これは起こっていない
ぼくはここにいない
ぼくはここにいない

 

用語解説

The Liffey ... アイルランドの中心を流れる生活の基盤となっている河川。Liffeyはアイルランド語で「生命」を意味する。

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リフィー川の位置

 

曲の主題は、現実に向き合うことができないトム・ヨーク自身の心情描写です。

完璧に姿を消す方法」というタイトルの通り、彼の向き合っている現実からの逃避をテーマにしています。

「How to Disappear Completely」はクラシックのように静かなアンサンブルとして構成されています。これは彼らにとっての夢の世界を表現したものなのです。現実の世界では、ギターを激しくかき鳴らし、熱狂のライブパフォーマンスを繰り広げているRadioheadがいます。そんな彼ら自身の姿を、まるでここではないどこかで、知らない誰かのように感じていたのです。

なぜそんなことを、いちバンドマンが大真面目に考えていたのでしょうか?
それはRadioheadというバンドが「Creep」「The Bends」「Ok Computer」の成功により一気にスターダムに駆け上がってしまい、地に足のつかない状態で延々と世界中でツアーをさせられ、身も心もズタボロになっていたからなのです。

 

解説

That there, that's not me(そこのそれ それはぼくじゃない)

「そこのそれ」とは、世間がポップアイコンとして見ているトム自身のことです。一人の人間としてではなく、一人の奇抜なアーティストとしての存在。それは自分であって自分じゃない。

I go where I please(ぼくは好きなところに行く)
I walk through walls(壁を通り抜けて)

まさに現実逃避です。

And I'm not here(ぼくはここにいない)
This isn't happening(これは起こっていない)

この一節は有名ですね。R.E.M.のフロントマン、マイケル・スタイプがトム・ヨークに、「(ツアー中の)不安な気持ちを落ち着けるのに役立つから」と渡した言葉からの引用です(I'm not here, this isn't really happening)。マイケルはトムに、困ったらこの言葉を思い浮かべろ、と伝えました。実際にトムはその言葉に幾度となく救われたのでしょう。

ちなみに「This isn't happening」は「これは起こっていない」という意味ですが、どちらかというと「(起きているのはわかっているけど)現実だと認めたくない」というニュアンスです。同じく「I'm not here」も「ここが自分の居場所だと認めたくない」というニュアンスです。

Strobe lights and blown speakers
Fireworks and hurricanes

ストロボライト 吹き飛んだスピーカー
打ち上げ花火と ハリケーン

この部分は、1997年のグラストンベリーでのライブがモチーフのようです。このライブでは、悪天候のために機器のトラブルが発生し、演奏すらままならなかったそうです。

しかし、そこから次々と思わぬアクシデントがトムを襲った。
足元にあるモニターから急に音が聞こえなくなり、さらにはステージ上の照明から強烈な光がトムの顔に浴びせられ、何も見えなくなった

「すべてが台無しだった。僕はその間、4万人の前に立ちすくんでいた。立ったままどうすることもできず、『これだけの人の前で僕の人生をめちゃくちゃにしてくれてありがとう』と言うしかなかった」(トム・ヨーク)

引用元 レディオヘッド~最悪の状況で生まれた最高のパフォーマンス 

この「ストロボライト〜〜」の歌詞は、この楽曲で唯一、現実を描写した部分となっています。彼らを決して離さない、非情な現実の象徴として描かれます。ここから、トムのラウドとともに、楽曲も盛り上がりを見せます。「ぼくはここにいない」という儚い思い込みもむなしく、容赦ない現実が彼を引き戻そうとしています。その引き裂かれるような感情が、ファルセットによるコーラスとオンド・マルトノによる不協和音として表現されています。

控えめに言って、天才としか言いようがありません。

 

余談

ちなみにグラストンベリーは、イギリスで最も大きな音楽祭です。そして、この1997年のライブは同イベント史上5本の指に入るパフォーマンスと大絶賛され、トムの失望とは裏腹に、レディオヘッドがスターダムに駆け上がるきっかけとなったのでした。

このライブはニコニコ動画に上がっていました。気になる方はぜひご視聴ください。

(20世紀の音楽シーンから生まれたとは思えない、とてつもないパフォーマンスでした・・・)

 

あわせて読むとさらに深読み

 

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参照)リフィー川について:https://gotrip.jp/2019/12/119798/