深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Lucky / Radiohead - 消え入りそうな希望を抱いて

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チャリティー・アルバム『HELP』(1996年)のために提供された楽曲。
3作目のアルバム『Ok Computer』時代の幕開けとなる作品となった。トム曰く「次のサウンドを示す、壁の印」とのこと。

歌詞

I'm on a roll
I'm on a roll this time
I feel my luck could change
Kill me, Sarah
Kill me again with love
It's gonna be a glorious day

Pull me out of the aircrash
Pull me out of the lake
Cause I'm your superhero
We are standing on the edge

The head of state
Has called for me by name
But I don't have time for him
It's gonna be a glorious day
I feel my luck could change

Pull me out of the aircrash
Pull me out of the lake
Cause I'm your superhero
We are standing on the edge

We are standing on the edge

和訳

いい感じだ
いい感じだ 今度こそさ
運が向いてきた気がするんだ

死ぬほどさ、サラ
死ぬほど愛してくれよ
素敵な日になると思うんだ

墜落事故から救い出してくれ
湖から引き上げてくれ
だってぼくは君のスーパーヒーローなんだから
ぼくらは崖っぷちに立ってるんだ

この国の首相がさ
ぼくを名指しで 招待してきたんだ
でもぼくには 彼にかまう暇はなくてさ
きっと素敵な日になると思うんだ
運が向いてきた気がするんだ

墜落事故から救い出してくれ
湖から引き上げてくれ
だってぼくは君のスーパーヒーローなんだから
ぼくらは崖っぷちに立ってるんだ

ぼくらは崖っぷちに立っている...

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解説

うまくいってるなんて言っているけれど・・

タイトルは「幸運」という意味ですね。

そして「I'm on a roll」は、勝負事でうまくいっている状態を表します。
「Lucky」という曲は、人生の運気が回ってきたというポジティブな出だしで始まります。

ただ「今度こそ、運が向いてきたんだ」なんて、本当にうまくいっている人のセリフじゃないですよね。むしろ破滅まっしぐらのフラグに聞こえます。案の定、恋人に「ぼくを救い出してくれよ。だってぼくは君のスーパーヒーローなんだから」なんて言う始末。明らかに、共依存のダメダメカップルじゃないですか。

しかも2番の冒頭で「首相に名指しで呼ばれたんだ。でも(君のために)断ったんだよ」なんて言ってます。もう妄想がすごい! 自信過剰もここまで来たら笑えちゃいます。

この状況はラッキーなのか?

ただ、このときのトム・ヨークはすでに、2作目のアルバム『The Bends』の大ヒットで、名実ともにスーパースターになっていました。だからこの曲を「勘違いした若者の戯言」と受け取るか、トム・ヨーク自身を投影した「成功したスターの苦悩」と受け取るか、はたまた「普遍的な喪失感について歌っている」と捉えるかで、意味合いが異なってくるでしょう。(また「standing on the edge」を「二人の破局直前」という解釈にしても面白いですね)

個人的には、この曲はその中間の意味合いなんじゃないかなと考えています。

この生きにくい世の中で、世俗から離れて生きていたい。
もし君が僕を信じてそばにいてくれたら、それは幸運だよ。

そんなギリギリの、消え入りそうな希望を抱いているのでしょう。
その希望を「幸運」と表現したのだと思われます。

まあ『The Bends』の表題曲「The Bends」でも「ぼくはただ、人類の一部になりたいんだ」なんて歌っていましたしね。そしてこの曲はちょうど『The Bends』のあと『Ok Compuer』が始まる前に書かれました。この時期はまだトム・ヨークもサブカル男子の気持ちを引きずっていたのかもしれませんね。

本当に首相に呼ばれてたトム

そして実は「首相に呼ばれた」のくだりは、実話になります。

「Lucky」が作られたのは1995年ですが、その2年後、1997年5月にトム・ヨークはトニー・ブレア(当時の首相)の招待を受け、それを拒否しています。この会談は気候変動について話し合うためのものでしたが、トムはブレア首相のことを「環境について語る資格がない男」として、話し合いの場に出向きませんでした。彼は常日頃から、ブレアの政策に疑問を持っていましたからね。

どこまでもブレないトム・ヨーク。素敵です。

っていうか、サラって誰?

「Sarah(サラ)」については議論がわかれるところです。Radioheadの歌詞に個人名が使われるのは非常に珍しいです。(もしかしたら「Lucky」が唯一かもしれません)。

ただこの意味深な名前ですが、トム曰く「(サラは)お気に入りの名前」であり、歌詞に用いたのは「それがいい音になるだろうと思ったから」だそうです。「The Bends」でも「Baby」とバーでお酒を飲んでいましたし、きっと昔の恋人か誰かを投影しているのでしょう。

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